楚里 勇己

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第二回は先日ジルダールで9回目の個展を終えたばかりの楚里 勇己(SORI Yuuki)さんにインタビューしました。楚里さんの素敵なお人柄が分かる内容となりましたので、是非ご一読ください!

インタビュアー榮:まずは個展お疲れ様でした!今回9回目のジルダールでの個展でしたが、移転後初の展示ということで、特に意識された点はありますか?

楚里さん:ありがとうございます。以前のギャラリーに比べると飾れる面積が増えていて、リモートで図面などを確認させていただきながら準備してきましたが、実際飾ってみるとやっぱり広かったですね。ただ次回の構想を練られた実感はあります。

榮:広くなったことで前よりも大きい作品が飾られていたので、来られたお客様も印象が違ったかなと思います。

楚里さん:そうですね。メインとなる壁がいくつかあるので、回を重ねるごとに色々変えれるなと思いました。今回は桜の作品を飾ってある壁(入って正面の壁)をメインに考えていたので、こちらが引き立つように展示しましたが、また次回は違う壁で展開ができるなと思っていて、以前のギャラリーよりも可能性は広がりそうですね。

日本画をより身近な存在に

榮:では次に楚里さんといえば草花のモチーフというイメージが定着していますが、ずっとテーマにされているこだわりはありますか?また普遍的なテーマだからこそ作家によって違いが大きく出ると思うのですが、制作の際に意識されているポイントなどあれば教えてください。

楚里さん:好きになったのは大学に入った前後くらいからなんですが、植物って一見止まっているように見えるんですけどジッと観察していると葉が動いたり、花が咲いたりと動きがあって、その動きのリズムと自分がスケッチしている時の波長がピタッと合っていて。
尚且つすごくカラフルですよね。日本画のイメージってなんとなく少し暗かったり敷居が高いイメージがあったんですが、そこをどうやったら身近に感じられるか、作家側からどんなアプローチができるかというのを考えていて、多くの方に見てもらうきっかけになるのは花かなと思ったんですね。
身近な存在である花だったら親しみを持って頂けるのではないかと思って、今のようなスタイルになっています。

9回目ともなると、今度はコレクションしてくださっている方や、見に来てくださる方に「楚里 勇己」の変化を感じて頂けるよう色合いだったりサイズ感だったりを工夫しています。9回も連続して同じ場所でやることって他では無いので。

榮:そうなんですね!ではジルダールでの展示は楚里さんにとって挑戦の場ですね!?

楚里さん:挑戦です。もの凄いハードです(笑)
9回も開催できたのは本当に応援してくださる方々のお陰だなと思って感謝していますし、これからも喜んでいただけるように、スケッチをいっぱい描いて新しい作品を制作していきます。

家と絵画の境界線をなくす

榮:現代の住宅にあう日本画、インテリアに合う作品を意識してらっしゃると伺ったんですが、どんな風に飾ってもらいたいなどありますか?

楚里さん:自分の作品って横長だったり正方形のサイズが多いんですが、というのも普通の絵画のサイズ規格に少し違和感を持っていて。お部屋に飾った時に絵だけが引き立ってしまうような気がして、そうではなくて壁に溶け込むような、その家に馴染むような絵画を意識してサイズや色、構図などを考えています。

榮:なるほど。「お客様にどういう風に飾ってもらいたいか」というより、「どんな場所に飾られても馴染むように描いている」ということですね。

楚里さん:そうですね。これまで色んな場所で展示してきた経験もあるので、どんな場所でも馴染むように描けているという自信はあります。
それから実際どんな環境に飾られたか、ということを購入されたお客様に聞ける範囲でお伺いしたりもしています。作品がどう飾られたのか単純に興味があるというのもありますし、お客様とのコミュニケーションにもなります。
こんな風に大切にしていただいてるんだなということが分かると、次へのモチベーションにも繋がります。
飾った時にピッタリ来る、というのを大切にしたいなと思っています。 

榮:描いたその先まで考えてらっしゃるんですね。とても勉強になります!

落款について

榮:お客様から落款について質問を受けたのですが、作品によって押されている数が違ったりデザインもいくつかパターンがあって、何かこだわりや意味はありますか?例えば大型の作品は2つ押されていますよね。

楚里さん:大型の作品に2つ押し始めたのは2年くらい前からですが、まず上はオクラ印(オクラの形を模した印)で「楚里勇己印」という落款を押しています。こちら実は2〜3年周期で微妙に変えています。これは勝負事や祝い事の時に印を変えるという風習が落款発祥の中国の方であるようで、それを参考にしているのと、後々この作品がいつ描かれたのかが分かるようにしてあります。日本画らしい考えなんですけど。
もう1つの印は、自分が特に気合いを込めて作った時に押しています。例えば今回のメインである桜は、描き終わった時に2つ押そうと決めました。「豊年」(ゆたかなとし)という言葉を入れています。縁起の良い言葉を選んで押すようにしています。
あと、オクラ印の色が反転しているものとそうでないもの(白文印、朱文印)はシリーズによって変えていたりします。

榮:へー!面白い。では同じ印を押されている場合は何らかの関連性があるんですね。いくつかコレクションされている方はインタビューを読んだ後に是非ご自宅の落款を見比べてみてくださいね!

榮:では次に、大きさにもよると思いますが、一枚制作するのにどのくらいの時間がかかりますか?また、どのくらいの枚数をスケッチしてから本番に臨むのか気になります。

楚里さん:一度に複数の作品を同時進行で進めていますが、まずベースの和紙に滲み止めをして箔を貼るところまでが長いです。滲み止めは晴れた日にしかできないので天候にも左右されます。次に11cm角くらいの箔を貼っていき、土台を作るのに大体2週間くらいかかるかな。その後絵を描き始めてさらに2週間くらいかなと思います。
少し大きめに描いておいて、最後にパネルに張り込む作り方をしているのですが、張り込んだ後にまた書き足したりなどの調整をします。

榮:かなり工程があるんですね。

楚里さん:はい。本来であれば9割くらい完成させてからか張り込むようにしているのですが、今回の大型の作品に関しては結構書き足してますね。桜の花びらなんかは相当書き足してます。

スケッチは同じ場所に2、3回通ったりするんですが、立ちっぱなしで描くのも限界があるので、しっかり描いてあとは記憶しますね。カメラや写真は使いません。

榮:それはすごいですね!

楚里さん:僕の好きな日本画家たちが、それこそカメラなんてない時代の彼らが言っていたのは、「必ず物を見て、物から学ぶ」その姿勢から学びました。
スケッチをしっかり描くと、その時の情景とか温度とか自然と全部覚えているんですよね。

榮:確かに、デジタルで残してしまうと逆に後で見ればいいか、となって記憶が曖昧になるかも知れません。

榮:では最後に、今後作家活動でやってみたいことや挑戦したいこと、描いてみたいモチーフなどはありますか?

楚里さん:描いてみたいモチーフは引き続き植物です。何か特殊な花というよりもより身近な、日常で見れる花を描きたいと思っています。身近で知らない植物ってまだまだ沢山あるので、それを描いていくことが楽しみですね。
同じモチーフでも、より進化させたいと思っています。
身近なところをもっと探求していきたいですね。
逆にすごい有名な場所での展示とかは実はあまり興味がなくて。
ギャラリーなど以外でも、人がやっていないような空間とか自分が知らない場所の方が面白そうだなと思いますし、やってみたいです。
このまま続けていってお客様にもっと喜んでいただけたら良いなと思います。

榮:今後のご活躍、益々楽しみにしております!ありがとうございました。

記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

楚里 勇己 / SORI Yuuki

日常の生活にある壁紙や洋服にプリントされた花柄のような作品を、あえて金箔や銀箔、岩絵の具といった伝統的な日本画の手法で描き、現代の住空間を彩ることのできる日本画を描いている。
細部を観察し季節に応じた花を描く日本の伝統的な感覚を、日常になじみある花柄を通して現代の暮らしの中にとり込み今までア-トと交わる機会のなかった人にきっかけをつくりたいと思っている。

アーティストページはこちら


楚里 勇己 個展
flower +9
2021年2月27日[土] – 2021年3月21日[日]

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