渡部 裕子 さん

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第3回は現在ジルダールで個展「饒舌な白 Ⅱ」を開催中の書家、渡部 裕子さんにインタビューしました。渡部さんのお人柄と書道の奥深さを感じられる内容となりましたので、是非ご一読ください!

インタビュアー榮:「饒舌な白 Ⅱ」という前回に引き続いてのタイトルとなりましたが、テーマがあれば教えてください。

渡部さん:「白」には二つの意味を込めています。一つは書道の「余白」としての「白」。私は普段から余白をより一層美しくするために文字を書いています。そのためには「へん」と「つくり」の位置を離したり、墨跡をそのまま残したりしています。余白を美しく保つことで、それはただの平面ではなく、3Dを感じる空間となり、さらには昔の思い出や匂いなんかも感じるようになったら最高です。
もう一つの「白」は、漢字の成り立ちに由来します。「白」の漢字は風化した骸骨のかたちから来ていて、あまり考えたくないことかもしれませんが、人間の終焉を考えることで、自分が生きていくということについて改めて思い、自分自身の限りある生について、より一層いとおしく感じてほしいなと思っています。

榮:深い意義が込められているんですね。

渡部さん:それから今回作品の所々に朱色を混ぜているんですが、それは「生」をイメージしています。血と言ったら生々しいし、その色で文字を書くのも違うなと思ったんですが、部分的に入れることで、生を感じていただけたらと思います。

そっと寄り添う書のかたち

榮:ジルダールでの展示について、他の展覧会などと比べて意識したポイントなどありますか?

渡部さん:書道の個展と聞くと、掛け軸に漢字がずらりと並んでいたり、どう鑑賞して良いかよくわからなかったりする場合を想像されると思います。なかなか書を日常に飾ることがない昨今、現代アートとして作品を扱ってくださるジルダールさんに感謝すると同時に、アートとして身近に置いておきたくなるような、意味は深いが、そっと寄り添っていてくれるような作品作りを意識しました。

榮:ジルダールで展示される前は大型作品が多かったとお聞きしました。小作品などはジルダールで展示するようになって生まれた作品ですか?

渡部さん:そうですね、大きい作品も世界観を表すためにももちろん大切ですが、身近に飾るには小作品もあるとより良いのではと助言をいただいてから作るようになりました。
実は小作品は余白を作るのが難しくて、以前はあまり得意ではなかったんですが、インテリアの一部として寄り添えるようにより精度をあげて行きたいと思って。小さいけれど余白があるように、また立体作品では置いた周りの空間も余白になるようなものを意識して制作するようになりました。

書が立体になっていて、見る角度によって作品の印象が変わってくる

墨が持つ無限の可能性

榮:では次に使用している墨について教えてください。こちらの作品「花鳥諷詠」(入って左の4連作)個人的にすごく好きです!素敵な淡い青色が印象的ですよね。

渡部さん:ありがとうございます。この作品は自分でも気に入っています。
墨業界で初めて色墨に成功した鈴鹿墨(現在作っているのは日本で2名のみ)を使用しています。同じ墨でもしっかり磨ると艶のない黒色に、また淡墨にするとこのように蒼灰色になります。
淡墨は「墨の立体交差」と言ったりする方もいるんですが、前に書いた筆跡が浮き出てきたりして立体的になるんです。もちろん墨と紙の相性もあるし、天候とか湿度によっても出たり出なかったりするので、思い通りにならない面白さがあります。
それ以外でも彩墨だったり宿墨だったり、雲母を混ぜたり使い分けて書いています。

榮:繊細な滲み具合は彩墨では出ないとも伺って、墨って深いなぁと思いました!

渡部さん:深いですよね!面白すぎてまだまだ探求したりないです。
「花鳥諷詠」って言葉自体も好きで。「言」に「風」で「諷」なんて萌えるわ~って(笑)
俳人の高浜虚子さんの言葉で、自然界や人間界のあらゆる現象をそのまま客観的に見つめようというような俳句理念です。

榮:素敵ですねー。そういえば風って言葉お好きなんですよね?

渡部さん:大好きです!地上に風を巻き起こしているのが、大きな鳳凰だと信じていた古来の人々の思いからうまれた漢字なんです(諸説あり)。
(存在が)無いのに在る、在るのに無い。余白を作るときの自分の考え方に通じていて。いろんな解釈ができる言葉でとても好きなんですよね。

迫力の中に清々しさを感じる「花鳥諷詠」の前で。是非生で観て頂きたい作品

言葉の持つ「意味」を考える

榮:書を書きたくなる瞬間、制作を始めるきっかけなどはありますか?

渡部さん:たまに一緒にいる方々から、「指先が動いているよ」と言われます。どうやら書きたいときは無意識に、指先を懸命に動かしているようで。すごい怪しいですよね(笑)
たとえば素晴らしい音楽やアートに触れた時、読書していて気になる漢字を見つけた時など、私が書きたくなる時は指が先に動いて書いています。

榮:それって、良いなと思った瞬間にもう身体が勝手に反応しているんですかね。「きっかけ」というよりいつも書きたいって感じですね!

渡部さん:そうですね。その場に墨と紙さえあれば、いつも書いていたいです。

榮:ちなみに書くときって、「こう書こう」みたいな完成イメージが頭にあるんでしょうか?

渡部さん:イメージは実は無くて、私は「言葉の意味」をいつも考えて書いています。例えば花鳥諷詠は、どんな意味なんだろう?とずーっと言葉の持つ意味を頭の中で考えて考えて、解釈しながら書いています。
書くことによって理解したい、もちろん全てを理解することなんてできないですが、少しでも理解して、それをお客様と共有出来たらと思っています。どう捉えるかはお客様の見たり感じた感覚に委ねますけれど。

榮:なんだかお話聞いていると、抽象画みたいですね。
文字として見るだけじゃなくて、もっと自由な見方で良いんですね。

渡部さん:そうなんです。そこに共感していただけるととても嬉しいです。

榮:渡部さんといえば海外でもご活躍されていますが、お客様の反応など日本と違いはありますか?

渡部さん:面白いのはアメリカとヨーロッパの違いです。もちろん主観ですし場所などによっても違うでしょうけども、ニューヨークでもパリでも個展をさせていただいたことがあるのですが、アメリカでは「漢字、クール!かっこいいね!」で話が終わることもしばしば(失礼を承知で)。
一方パリでは「白い部分も物語があるね」や、「漢字はしっているけれど、チョイスがポエティック(詩的)だわ」など、奥の奥まで読み取ってくださる方が多い気がしました。

榮:外国といえど、国や文化で感じ取り方は様々ですね。興味深いです。

渡部さん:漢字はどうしても「情報」の意が強いので、日本人が鑑賞するときはまずはその漢字が読めるかどうか。読めないとダメ。という視点がある方が多い気がします。

榮:最後に、今回の展示に興味を持ってくださった方に何かメッセージをお願いします。

渡部さん:そうですね、まずは自由に、湧き上がってきた気持ちに身をゆだね、気になった作品があったとき初めてその文字が何なのかキャプションを見てみる、という鑑賞の仕方も試してみてほしいなと思います。

榮:ありがとうございました!

渡部さんの個展「饒舌な白 Ⅱ」は5月2日まで(月曜定休)開催しています。書の魅力がたくさん詰まった作品たちの世界を是非体感しにいらしてください!

記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

渡部 裕子 / Hiroko Watanabe

書家。一字書を主軸とした芸術としての書道表現から、金シャチ横丁ロゴやミッドランドスクエア周年ロゴ等の商業書道、立体書による国内外でのパフォーマンスまで幅広く活動。
漢字一字の細部が持つ線と点だけのシンプルな美しさ、またその余白が更に饒舌となるようにと、生命感ある表現を日々追い求めている。
パリやニューヨーク、名古屋城本丸御殿など個展多催。2014年南オーストラリア州立美術館に立体書11点収蔵。

アーティストページはこちら


渡部 裕子 個展
饒舌な白 Ⅱ
2021年4月10日[土] – 2021年5月2日[日]

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