伊勢型紙レポート

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第5回は、現在THE TOWER HOTEL NAGOYA “on hold”で開催中の企画展「Celebration – 伊勢型紙特別展 –」でご協力くださっている、オコシ型紙商店様のところへ取材に行ってきました。その巧みな技と伝統的な魅力を今回はレポート形式でお伝えしたいと思います!!是非ご一読ください。

4月某日、伊勢型紙の取材のため鈴鹿市にある大正13年創業の老舗、オコシ型紙商店さんを訪れました。
現地に着くと代表の越(おこし)さんが笑顔で出迎えてくれ、早速展示スペースへ。伊勢型紙についてのお話を伺いました。

着物を染めるための「伝統工芸用具」

そもそも伊勢型紙とは、「きもの」の図柄を染色する目的のために文様が彫り抜かれた型紙のことを指します。その起源は諸説ありますが、最古のものでは奈良時代(710年-784年)とも言われています。
いにしえより受け継がれてきたその巧みな技術は、その後“伊勢の地”(三重県鈴鹿市の白子・江島・寺家地区)に根付き発展してきました。
その一方で美術品として脚光を浴びるきっかけとなったのは、19世紀後半にイギリスで始まったアーツアンドクラフツ運動、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に広がったアールヌーボーでした。
これらのムーブメントが光を当てた日本古来の伝統美は、その後国内でも再評価され始め、伊勢型紙は1983年にそれらを支えた技術と芸術性が讃えられ「伝統的工芸用具」としての認定を受けています。

現在では着物に限らず、インテリア、建築や空間デザイン、アパレルやテキスタイル、包装パッケージなど様々なシーンでモノ・コトの価値を高める効果を発揮しています。
確かな技術が織り成すその美しく繊細なデザインは、居住様式が変化した現代においても華やかさと品格を添えています。

職人の技が光る彫刻技法

彫刻は全て、三重県鈴鹿市周辺を拠とする職人によっておこなわれています。
彫刻の技法として大きく分けて4種類あり、職人はいずれかを専門として技を極めています。

引き彫り

鋼の定規に沿って直線を彫り、縞柄を仕上げる技法。一見単純であるが大変な集中力を要します。刀を手前に引いて彫ることから「引彫り」とも呼ばれ、シャープな文様表現を特徴とします。

突彫り

先を細く鋭利に砥いだ小刀で、刃先を前に向けて刻みながら彫り進める技法で、細かな曲線など柔らかな文様表現を特徴とします。

道具彫り

刃先を三角・桜などの形に作った彫刻刀で、ひと突きに文様を彫り抜く技法。彫刻職人が自ら道具も制作します。

錐(きり)彫り

半円形の刃先を垂直にあてて回転させ、円形の孔を彫る技法。孔の大小・配列・粗密の組合せによる繊細 な文様表現を特徴とします。伊勢型紙の真骨頂ともいうべき極小の文様が多くみられます。

職人はそれぞれの図案に合わせて彫刻刀を独自に制作していて、中には4000本もの彫刻刀を所有している職人さんもいるのだとか。
全盛期には彫刻刀を作る専門の職人もいたそうで、一大産業としていかに賑わっていたかを窺い知ることができます。

小本型との出会い

型紙についてのお話を一通り聞き終わり、その魅力と世界観にグイグイ引き込まれながら、6月の展示に使用する型紙選びのため母屋へ移動。
建物の広間に入るとずらっと並んだ型紙の束が!それはもう圧巻の光景。伺ったところ、およそ1万枚はあるとか!
それぞれ柄が異なるそうで、歴史の長さを改めて感じました。

この中からどうやって展示に使用する数枚を厳選しようか、、、としばらく考えあぐねていると、「こんな面白いものもありますよ」と起さんが部屋の奥から箱を持ってきてくださった。中を見ると何やら時代の古そうな型紙が。
部屋に並べてあるものとはサイズも図柄も明らかに違い、横に文字まで書いてある。これは一体?
話を聞くと、これらは起さんのお祖父様がオコシ型紙商店を始める前からコレクションされていたもので、明治・大正時代の「小本型」というものだそう。

小本型というのは型紙を作るための型で、様々な図案やモチーフが素描のもと彫刻されており、四方に送りがつけられている。つまり「型紙のマスターピース」であり、これをもとにして製品としての型紙を作っていくのである!

コレクションを見ていくと試行錯誤している跡や試し彫りのような跡、紙の端に名前や日付などメモ書きが記してあったり、中には途中までしか掘られていないものなどもあって実に面白い。
高価な和紙で作られていた台帳をそのまま柿渋で染めて使用されていたりもして、見つめていると職人たちの息遣いが伝わってくる。
図柄はというと農機具や稲穂の穂束・こけし・草の蔓・雀・花火などなど、とても身近なものを題材にしていて、当時の生活を垣間見ることができる。

コレクションの明治末期〜大正時代というのは、日本がとても元気だった時代。
大正モダンという言葉もあるように、斬新な文様があったり着物の色が奇抜で派手な着物があったり、その時代の世相を反映したような図柄が多いのだそう。
現代の私たちが見ても変わることのない、普遍的な美しさがそこにある。

どこに行ってもおそらく絶対見ることができないであろうこのお宝の数々に、一同目を輝かせて大興奮。

「是非これを展示のメインにしましょう!」と即決でした。

今回の展示ではコレクションの中から厳選し、その中の一部を額装展示しています。どれも魅力的なものばかりですので、展示以外の作品もご興味ございましたら、ぜひお気軽に弊廊までお声がけください。

※コレクションはご購入が可能です。

中には貴重な江戸時代の型紙も

結びに起さんから、ご来場くださるお客様へのメッセージをいただきました。

「伊勢型紙というのは元々着物を染めるための道具なので、なかなか人目に触れることはないのですが、今回このような素敵な場所で展示できることに感謝しています。
尚且つ、今回私たちが敢えて外に出さなかった、大正、明治の型紙というものを皆様にお披露目できることになったのも感慨深いものがあります。
私たちが知らなかった価値というものを、ご覧になられる皆様がつけてくださって、それがさらに私たちの励みとなれば幸せです。」

企画展「Celebration 伊勢型紙特別展」は6月27日(日)まで中部電力MIRAI TOWER(テレビ塔)にあるTHE TOWER HOTEL NAGOYAの4階にて開催中です。
他では決して見ることのできない貴重な品々を、この機会に是非ご高覧ください。

記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

オコシ型紙商店の代表、起 正明さん(展示会場にて)

オコシ型紙商店

大正13年の創業以来、伊勢型紙の美術的な可能性に着目しプロデュース / 企画を手掛ける。日本の文様・文化を型紙に投影させながら、時代や国境を越え伊勢型紙の価値を広めている。

【主なプロジェクト / 企画協力】
2010年 Maison & O bjet (フランス・パリ)
2011年 Première V ision i ndigo (フランス・パリ)
2012年 Première V ision i ndigo (フランス・パリ)
2016年 REVALUE N IPPON PROJECT (日本・東京)
2016年 百五銀行 丸之内本部棟 ファサード (日本・三重)
2018年 Japonisme i n Design Practice / M useum of Domestic Design and Architecture (イギリス・ロンドン)


Celebration 伊勢型紙特別展
2021年6月3日[木] – 2021年6月27日[日]
THE TOWER HOTEL NAGOYA 4F GALLERY SPACE “on hold” (完全予約制)

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