新埜康平×野村仁衣那
作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第29回は現在企画展「scene 04 – Poems and Thoughts」にご参加くださっている新埜康平さん、野村仁衣那さんにお話を伺いました。展示タイトルから着想を得て事前にお二人で話し合って作ってくださった展示空間についてや、制作プロセスや作品に対する考え方など、楽しくて興味深いお話を沢山聞くことができました。
※メイン写真(左から):新埜康平さん、野村仁衣那さん
ー 昨年よりアートフェアなどにも多くご参加いただいているお二人ですが、改めてまずは作品コンセプトについてお話しいただければと思います。
新埜さん(以下敬称略)「僕は日本画材で基本的には和紙の上に顔料と膠を使って描いています。江戸時代から使われている素材や技法と現代的なモチーフを組み合わせて制作しています。」
ー モチーフにはストリートっぽいものやグラフティーのようなものもありますよね。
新埜「そうですね。それと作品の下の方に書いてある言葉が作品タイトルになっていて、パネルに折り込まれてるので下から覗いてもらうと読めるようになっています。タイトル部分にはストリートなどで使用されているペンを使っています。インクを補充するタイプのペンで、自分の場合は胡粉、牡蠣や帆立などの貝殻をすり潰して粉末状にした日本画材を使って描いています。」
ー ペンで描いてるんですね!
新埜「そうなんです。ドリップペンといって屋外で使われているペンですが、先がフェルト状でマジックっぽい感じになっていて。それをさらに日本画材の粒子が通るように穴を開けてカスタマイズして描いているので、そこだけ筆じゃないタッチになってます。」
ー このタイトル部分がタッチも含めてとても特徴的で、一目で新埜さんの作品だと分かりますよね。
ー 野村さんは2022年のグループ展以来2回目のインタビューになりますが、改めてお聞かせください。
野村さん(以下敬称略)「私は身の回りの身近なモチーフ、主にプラスチック製品にハンダごてを使って熱で溶かして穴を開けている作品です。プラスチックの素材の起源というところで、元々太古のプランクトンや動植物の死骸などが大地に堆積してそれが長い年月をかけて石油になってそれを使ってプラスチックができているっていう起源を、穴を開けて光を反射させて光を宿してあげることによって、心象風景を再生させるというようなコンセプトで制作しています。」
ー 何度聞いても素敵なコンセプトですね。
野村「ありがとうございます。一見無機質に見える様々なプロダクトやどんな素材でも起源を辿ってくとルーツは自然や命っていうものから来ていると思っていて。私たちが自然から恩恵を受けて、私たちの生命サイクルがこの地球の色々なものと共に循環してるみたいな意識があります。」
新埜「今のお話を聞いてると、わりと考えが日本画に似てますね。素材感というか自然っていうところでは日本画は動物の命も使っているので、勝手に共通性を感じました。」
野村「確かに、遠いようで考え方は近いのかもしれませんね。」
ー 今回の二人展についてですが、実はこれまでジルダールギャラリーで開催した展示で事前に作家さん同士がお知り合いということがほとんど無くて。どんな展示にするか事前に打ち合わせしてくださってたと伺って、ギャラリー的にもそれが新鮮だったのでどういう風に話し合いをされたのかお聞きたいしたいなと。
新埜「この入って正面の壁は結構打ち合わせしましたよね。一番初めの打ち合わせで目玉になるような部分をどこかに作ろうって話になって、どこか1か所はコラボしたいねって。」
野村「新埜さんが元々映画とかから着想を得て、仮の人物や情景を思い浮かべながら日常生活をモチーフにされてることが多いと伺って。私も日用品をモチーフにしているし被っているモチーフも多かったので、それだったら何かひとつ部屋のような空間を作れるんじゃないかなって思いました。窓際の方は外の爽やかな感じで、棚は植物のシリーズで統一しようみたいな話はしましたね。」
新埜「あとはキュレーターの木村さんが素敵な展示タイトルを考えてくださったので、タイトルやステートメントも含めて少し物語性を感じる部屋にしようって。空想の人物が住んでそうな、見てくださった方が誰かの存在を感じるような。そういったことを意識しました。」
野村「そうそう。どんな人が住んでるだろう?女性かな男性かな?って、細かい設定は各々決めながら想像しながら楽しんで制作していった感じですね。」
ー インスタレーションのような空間で凄く素敵だなと思いました!展示の仕方についても、いつもは壁や面で区切ることが多いのでお互いの作品をミックスさせるような今回のレイアウトはとても新鮮でした。
ー 色味も似てるような気がするんですが、何か意識してくださってますか?
新埜「色味に関しては僕は今回結構意識しました。野村さんの作品は以前から拝見していてある程度どんな雰囲気か分かっていたので、それでコラボする展示部分に関しては例えば洗面台をモチーフにした作品だと、いつもはもう少しポップな色味で描いているんですが、隣合う野村さんの作品に合わせて淡い感じにしました。飾ってみてやっぱり合わせてよかったなって思います。」
ー まとまりがあってとても素敵です!お客さまの反応が楽しみです。
野村「そういってもらえて嬉しいですね。」
ー 今回の展示に合わせた新作もモチーフとしては日用品が多いと思いますが、他に何か拘りや意識した部分などはありますか?
野村「これまでは既製品に対して穴を開けることが多かったんですが、今回の展示では飴やアイスなど溶けて消えてしまうような、形として留めておけないものも自作で作っています。飴やアイスってそれが溶けて無くなるわけじゃなくて体に吸収されてまた別のものになっていくような、巡るイメージがあって。それで今回溶けて消えてしまうものや葉っぱなどを作ってみました。」
ー 以前はなかったですね。そう考えると作品は結構変わってきてますね。
野村「モチーフ自体は今までも扱ってるんですけど、自分の中で意識が変わってきていて。最近は“記憶とものの関係”により着目しています。例えばテープやMDなどのメディアは、見てたら『こういう曲録音してたな』ってその当時に戻ったような、心の中で再生するみたいな感じになるなと思って。ものの形やその意味合いっていうのは日常の記憶と凄く結びついてるなと思います。」
ー 確かに学生時代の空気感とか記憶が蘇ってきました!モチーフを選ぶ時にそういったことも大切にされてるんですね。
ー 新埜さんはどうでしょうか。作品の中でもシリーズがいくつかあるように思いますが、シリーズによって拘りとか意識の違いなどはありますか。
新埜「いくつかシリーズはあるんですが、一貫して映画に出てきそうなものを選んでいます。 映画の構図で日常生活を覗いてそこから切り取るっていうんですかね。普段生活してる時も『この角度、映画のシーンっぽいな』とか、そう思った場面をドローイングやメモで残しておいてから制作することが多いです。日常生活の中に作品のヒントや素材になるようなものが沢山あって、基本的にそこからあんまり離れたくないっていう気持ちがあるんです。より等身大に近いもの、好きなものだったり実際に手に取ったことあるようなものとかを選ぶようにはしてます。」
新埜「この銀箔に文字が描いてあるタグシリーズも、以前は街の壁などにあるラグガキやステッカーをそのまま切り取った作品を描いていて。そこから段々ズームしていって、壁を描く代わりに銀箔で表現しています。これは壁が外で雨ざらしのままでいたりして変化していく様子を日本画で表現できないかなっていう想いから発展させたもので、変化することを前提としている作品なんです。考え方としては先ほどの映画のシーンを切り取るイメージと同じですね。」
ー 変化することが前提というのは面白いですね。
新埜「起承転結でいう“承”のような感じで、前後にある程度のストーリー性を感じるものを選んで描いているんです。」
ー 作品を見ているとそれがとても伝わってきます。以前伺った話で“作品とご自身との間にあえて距離感を取りたい”みたいな話をされていたのを覚えてて、 モチーフは身近なものが多いのに面白いなって。それを作品に起こすことで客観的に自分を見るみたいな感じなんですかね。
新埜「そうなんです。この山の作品とかも実は何年も前に取材したものだったりするんですよ。すぐにアウトプットしないである程度寝かせるんですよね。勢いで描くドローイングもあるんですけど、そこから作品に発展させるまでに思い出として風化したような記憶にさせてから描き始めるんです。すぐに作品にしようと思うと距離が近くなるというか、その時の自分の感情が乗ることをなるべく避けたくて。多分日本画が格闘できないからっていうのもあるんですけど。」
野村「格闘ですか?」
新埜「画面上で消したり描いたりできない。油絵とかみたいに上に乗せたりとか出来ないんで、だから直でアウトプットした時の危うさがあるなと思っていて。素材的に修正が効かないから客観的に理論立てて制作していく必要性がありますね。」
ー 野村さんは作ってる時に作品に対してはどのように捉えていますか?
野村「私の場合、見知らぬものが穴を開けるにつれて自分の側に寄ってきてる感覚があります。やっぱり自分で手をかけてるからっていうのもありますがどんどん愛着を感じる。“穴開きフレンズ”の仲間に入れてあげたいなって。無機質なものだからこそ穴を開ける度に段々オリジナルになって距離が近づいてくる感覚です。」
ー 穴開きフレンズ(笑)可愛い!自分でつけて呼んでるんですか。
野村「そうです(笑)あとはなんか穴を開けることでその中に余白が生まれて、そこに自分の記憶を保管するような作用があるのかなって思ってます。作品化してあげることによって自分の記憶が投影されるみたいなところもあるのかな。穴がそういった余白になるのかなって。」
新埜「確かに、野村さんの作品見た時それは思ったかも。余白が気持ち良いというか、穴の部分が想像力を掻き立てられて面白いなって。」
野村「嬉しいですね。」
ー こうやってお話伺うと、また作品の見方も変わるから面白いですよね。
野村「そうですね。平面と立体で全然違うように見えるけど、でも共通するところがあって凄い面白いです。」
新埜「余白感はわりと共通してるかもしれないですね。僕も余白は大事にしてて“描かないことで描く”みたいなことは結構意識してるんで。」
野村「余白もそうですが、お話聞いてると新埜さんは記憶を映画みたいに映像編集してから描いているんだなって思いました。作品が可愛いけどクールに感じられるのはそういったところから来てるのかなって。」
ー 余白が良いキーワードになってますね。お客さまにもそういった余白や余韻みたいなものを感じながら鑑賞してもらえたら嬉しいですね。
企画展「scene 04 – Poems and Thoughts」は4月21日[日]まで開催しています。
お二人の作品から感じさせる日常の中の細やかなストーリーたち。素敵な空間をぜひ体感しにいらしてください。
インタビュー:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎
新埜 康平 / Kohei Arano
東京生まれ。東京を拠点に活動し、展覧会などを中心に参加している。
ストリートカルチャーや映画の影響を受け、仮名の人物や情景、日々の生活に根差した等身大のイメージをモチーフに制作。余白やタギング(文字)の画面構成等、様々な絵画的要素を取り入れ、日本画×ストリートをテーマに制作。
Independent Tokyo 2023 小山 登美夫 賞。2023年 metasequoia 2023 笹貫 淳子賞。第1回Idemitsu Art Award(旧シェル美術賞)。入選 第39回 上野の森美術館大賞展 入選。第56回 神奈川県美術展 入選。
野村 仁衣那 / Nina Nomura
東京を拠点に活動。微細な穴で物体の表面を埋め尽くす作品シリーズ“Life Through Holes”を通して、現代社会における暮らしや自然 / 素材・物質の起源など、具象・抽象の両軸から解釈した心象風景を表現している。