佐藤幸恵×山﨑愛彦

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第28回は現在企画展「scene 03 – LIKE A PUZZLE」にご参加くださっている佐藤幸恵さん、山﨑愛彦さんにお話を伺いました。自身の記憶や記録あるいは感覚や感性をプロセス / インスピレーションに創作を続けるお二人。その考え方や制作方法を伺うことができました。是非ご一読ください。

※メイン写真(左から):山﨑愛彦さん、佐藤幸恵さん

ー 初めて見るお客さまが多いと思うので、それぞれの作品のコンセプトや素材のことなどお聞きできればと思います。ではまず山﨑さんからお願いします。

山﨑さん(以下敬称略)「私は中学生の頃からよく携帯の写メ、って言葉はもうあまり使われなくなりましたが、写メで身の回りの写真を撮って身近な記録を残していたんです。最初は携帯のメモリーに保存していたものがUSBやハードディスクやクラウドストレージに移り変わって今も撮り続けているのですが、あるとき大事なデータを保存していたUSBが劣化によって再生出来なくなってしまいました。そのことをきっかけに、どのようにして身近な記録を残すかということが基本テーマになっていきました。
写真が発明されるまでは宮廷画家が貴族の肖像画を描くという形で残していて、それを現代の技術を使いながら身近な写真や記録を絵画として残す試みをしています。」

山﨑「素材については、iPhoneや一眼レフなど身近にあるデバイスで撮ったものをSNSにたくさん投稿していて、それらを素材にしながらフォトショップなどのソフトを使ってパソコン上で切り取ったり重ね合わせたりして再構成し、それをプロジェクターで投影しながら絵の具で手描きしたりエアブラシを使ったり、シルクスクリーンで刷るというような作り方をしています。
例えば今回だと、工事現場のバリケード(ペンギンモチーフ)が写っている作品がありますが、こちらは木枠にキャンバスを張ってそこに透明ジェッソを塗ってから、工事の写真・横浜の写真・京都土産の水餅を食べている時の写真を構成したものをプロジェクターで映しながら描いています。
木製パネルにジェッソを塗って描く方法や、キャンバスにクリアジェッソを塗ってから描く方法、キャンバスにジェッソをキャンバス目を残したまま描く方法、そして完全に刷毛目やキャンバスの目がなくなるまで平らに研磨してから描く方法と、今回の会場では4種類の描き方があるんです。」

ー 下地だけでもとっても複雑ですね!

山﨑「そうですね(笑)より良く、より長く作品を残すにはどうしたら良いかと試行錯誤しながら作っています。」

ー 佐藤さんはいかがでしょうか。

佐藤さん(以下敬称略)「私の作品は大きく分けると2種類あって、一つは「気色」というシリーズです。風景などの“景色”と掛けているんですがこれは立体の抽象画というイメージで、明確なコンセプトがあるわけではないですが作るうえで大切にしていることは、どこかに出かけた時にその場で感じる「気配」の抽出物のようなイメージで作っています。色んな素材を集めるのが趣味で、色んな場所で見つけたものや、アンティーク、小物などを組み合せて、自分にとっての良いバランスを見ながら足したり引いたりして制作しています。」

ー “立体の抽象画”という言葉がしっくりきて、とても印象的ですね。

佐藤「主な素材はガラスで、技法としては鋳造ガラスです。原型を粘土や手捻りワックスというもので作成して、この段階で金属などを入れて作り込んでいきます。鋳造する際に出る泡や、金属が熱によって変色したりする偶発性みたいなものを作品の中に一緒に取り入れています。」

佐藤「もう一つは「残片」というシリーズで、これは2、3年ほど前から作っています。土器も好きで集めているんですが、作品の出発点を自分の思考ではないところに置いてみたいと思って、土器の欠片から自分なりに派生して形を作り上げる試みをしています。最初は土器だったんですが、最近では化石や割れた鉱石なども使っていて、それぞれの形と対話しながら繋げて作り上げているというイメージです。」

色合いについては、何か拘りはありますか?グラデーションのように混ざり合っていて独特だなと思っていて、素材も最初ガラスに見えなかったんです。

佐藤「技法としては“パート・ド・ヴェール”という、ガラスを砕いて糊などで練り合わせて作るフランスに古くからある技法を使っていて、不透明ガラスになるのが特徴です。ただ色などは自分で調合したりしているので作家によって色合いや雰囲気は変わってきますね。私の場合、表面はあまり磨いたりしていなくて、質感や原型を作った時の手の跡などもあえて残しています。」

ー では次に、今回の新作についてお伺いしたいと思います。

山﨑「先ほどいったようにフォトショップやイラストレーターなどのソフトを使って制作しているんですが、パソコンってゴミ箱のアイコンの上にデータをドラッグすれば削除できるみたいに、視覚で直観的に操作できるようデザインされていますよね。その液晶の上を滑るようなマウスの操作感やウィンドウなどのレイヤー的特徴を引き継いで、これまで画像の重なりで絵を作っていたんです。ただ作品の中にもう少し立体感や奥行きが欲しくなりまして。それで新作ではブレンダーという3DCG作成ソフトを用いて描くようになりました。今まで例えば影などはエアブラシを使って画像に近づけていましたが、今回は3DCGソフトでシュミレートされた画像をそのままシルクスクリーンで印刷しています。
作品上に入っている線(ストローク)は、パソコンでソフトを操作させる時の指(マウス)の軌跡だったりとか、ピンチアウトする時の動きがそのまま反映されています。」

ー 複雑に重なり合っていて、言われないとどこが印刷でどこが手描きかって分からないですね。

山﨑「そうですね。ただ手描きでも印刷でも、素材としては全てアクリル絵具なので、表記する時には「アクリル絵具、キャンバス」というミニマルな情報だけにしています。」

ー 佐藤さんはいかがですか?今回展示頂いたのものはわりと大きめの作品が多いような気もしますが。

佐藤「今回展示しているものは大体制作してから一年未満の作品ですね。
最近友人に言われて気付いたんですが、サイズ感というかスケール感が大きくなったところはあります。自分では意識してなかったんですけど。前よりも作品の佇まいや纏う空気感をすごく意識しているのかなという気がしています。以前はもう少しミニマルなものが多かったんですが、色んな素材を使うことが多くなってきて、真鍮の棒もここ1、2年で使うようになってきました。窯のサイズがあるので限界はあるんですが、そういった別の素材を使うことでボリューム感を出しています。」

ー 先ほども聞いたのですが、ガラスの中にも金属を入れているんですよね?

佐藤「そうですね。ステンレスの細いワイヤーを入れていたり、過去のもう展示に出さないようなものをもう一度砕いたり溶かしたりして再利用しているものもあります。昔の作品を入れることで、今の自分には出せない色なども溶け込んでいるので面白いなと思って。使う素材の幅が広がることで作品の幅も広がったのかなと感じます。」

ー 今回二人展をやるということを聞いた時と、今日実際作品を展示してみて印象などの変化はありますか?

佐藤「山﨑さんとご一緒すると聞いた時にWebサイトで作品を拝見したんですが、画像ではポップで彩度が高い印象があったので、正直最初は自分の作品が合うかなぁって思っていたんです。でも実際に作品を拝見したら質感や色合い、テクスチャーや立体感も含め落ちついている印象に変わりました。
そして今お話をお聞きして制作の仕方などとても興味深かったです。確かにiPhoneに入ってる写真を見ると自分の記録だなと思うし、山﨑さんの作品はその集合体みたいな印象で、記憶の重なりみたいなものが感じられますね。」

山﨑「色んなことを一瞬で思い出した時の風景のようなイメージです。」

佐藤「偶然性みたいなものとか、自分の作品と繋がるところがあるなと思いました。」

ー 山﨑さんは佐藤さんに聞いてみたいことなどありますか?

山﨑「この「残片」シリーズが気になっていて。先ほど欠片から派生して自分なりに形を作り上げていると仰っていましたが、「残片」シリーズを見ているとわりとシンメトリーな形を目指されてるのかなって気がするんですけど、ご自身の中にある拘りを聞いてみたいです。」

佐藤「んー、もっとここから大きくしようと思えばどこまででも出来るとは思うんですけど、このシリーズに関してはあまり自分という作家性を出したくないなと思っていて。「人の手で作る」っていうのはどれだけ無意識にと思っても、何かしらの形で「我」が出てしまうと思うんですが、なるべくその欲求を小さくした結果がこの形みたいなところはありますね。だからシンメトリーな形になりがちなのかもしれないです。ここからさらに大きくしてしまうと、作品としてもあまり魅力が無くなるのではないかとも思っています。」

山﨑「なるほど。自分の制作に置き換えた時に、フォトショップの機能で「スポット修正ツール」というものがあって。画像の一部だけ消したい時にそのツールを使って塗りつぶすと、周りの背景に合わせて自然に馴染ませてくれる機能で、お話を聞いていてそのツールが思い浮かびました。
また、佐藤さんの作品に使われているガラスの不透明感を見ていて思うのは、私の作品では描かれているモチーフを「スマホやPCのような透明な液晶から見ている」というイメージがあって、絵画の枠そのものが液晶で屈折や反射などない100%の透明があるんです。佐藤さんの作品にはガラス由来の透明/不透明な質感があって、全然素材の違う2つの透明感を見てくださる方に味わって貰えたらなと思いました。」

ー ガラス/金属の作家さんと平面作家さんの展示は過去にもありますが、今回は特に作品同士がお互い惹き合っているような不思議な空間になりましたね。
全く喧嘩してないというか、たくさん飾ってもうるさくならずとても良い空間になりました。

山崎「自分の作品は画面上に余白があるんですが、佐藤さんの作品も真鍮の線が作品に余白を持たせていて、その「作品の持つ余白」も共通している部分なのかなと感じます。」

企画展「scene 03 – LIKE A PUZZLE」は2月11日[日]まで開催しています。
お二人の作品が惹き合ってできる特別な空間をぜひ体感しにいらしてください。

インタビュー:田口あい / 写真:木村宗一郎 / 編集:榮菜未子

佐藤 幸恵 / Yukie Satoh

1986年、福島県生まれ。現在は東京を拠点に活動中。
筑波大学芸術専門学 群構成専攻 クラフト領域 (ガラス分野) 卒業 / 富山ガラス造形研究所造形科 卒業 / 平成30年度ポーラ美術振興財団在外研修生として、ポルトガル・リスボン大学 Master Glass Art and Science にて研修。
「作品を作る行為は私にとって積み木に似ています。」と作家がいうように、彼女の作品はキルンワーク / 電気釜を使った制作手法の特性を活かしながら、ガラスを主に金属や石など様々な素材を組み合わせ製作されています。独特な感性から生まれるユニークピースは​、心地さを纏いながら私たちにどこか新しい感覚と風景を見せてくれるようです。
近年の展示参加に、「Yukie Satoh Glass Show」 GALLERY CREDENCE (香港 / 2023)、 「ポーラミュージアムアネックス展 2023」 POLA MUSEUM ANNEX (東京 / 2023)など。

山﨑 愛彦 / Yoshihiko Yamazaki

1994年、北海道生まれ。現在は京都を拠点に活動中。
北海道教育大学 大学院教育学研究科 教科教育専攻 美術専修(油彩画) 修了 / 第34回ホルベイン・スカラシップ奨学生。
クッキーや観葉植物など日常的なモチーフが頻繁に登場する彼の絵画作品は、過去の自作が画中画として繰り返し引用されながら構成されています。現代において大量に流れては消えていく情報や記憶の断片の自由なつながりを表現しながら、作家の言葉では「1998年にゲームボーイカラーの赤外線通信を初めて使った時の画面同士を挟む数cmの空間」に誘うような表現 / 世界観を特徴としています。
近年の展示参加に、「8da0b6」京都 蔦屋書店 6F アートウォール(京都 / 2023)、「HAPS KYOTO selection #2「山﨑愛彦」」HAPSオフィス1F (京都 / 2023)など。これまでの弊廊展示参加に、「Between me and me」  (REAL Style本店 / 2022)。


scene 03 – LIKE A PUZZLE
佐藤 幸恵 / 山﨑 愛彦
2024年1月20日[土] – 2024年2月11日[日]

JILL D’ART GALLERY

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