哲叡

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第6回は現在個展「アルモナージュな世界」を開催中の日本画家、晢叡さんにインタビューさせていただきました!名古屋市内にあるアトリエにお招きいただき、寛ぎながらアート談義にも花が咲きました。是非ご一読ください。

インタビュアー榮:アトリエにお招き頂き、ありがとうございます!
まず今回の展示タイトルにある「アルモナージュ」について、こちらはどういった意味なんでしょうか?

哲叡さん:アルモナージュというのは、ある時僕の絵を見て友人が、洋と和の良いところを取って新しい価値観を想像するという意味合いで「アート」と「マリアージュ」をくっつけて造語を作ってくれたんです。それが「アルモナージュ」の語源ですね。
西洋の美学はギリシャの時代から様々な変貌がありながら現代に至っていて、日本の美学においても例えば美しい女性像などは今と昔でかなり変わってきていますよね。どちらかと言えば西洋に寄って行っているところがある。美学というのは、時代によって変貌しつつも混ざり合いながら調和を保っているのではないでしょうか。

榮:ご友人が哲叡さんの絵をご覧になって、融合した美学を感じ取られたというのは興味深いですね。元々油画をやられていたという哲叡さんだからこそのエピソードのようにも感じます。

今回の展示について、特に意識された点などはありますか?

哲叡さん:夏だから涼しげな絵が良いのではないかということで金魚にしたのと、先ほどの話に繋がるんですが、江戸の金魚、西洋の金魚、見た目や描き方は様々あると思うんですが、両方の良いところを取って自分の中で解釈して描いたときに上手く自分の中に落とし込めたというか、全く違うものが描けたんですよね。

榮:アルモナージュな世界観を表すのに金魚がとても合っていたということですね。

哲叡さん:そうなりますね。

日本画の可能性に惹かれ油画から転向

榮:パリで油画を学び、帰国後に日本画家に転向されたと伺ったのですが、何かきっかけはあったのでしょうか?

哲叡さん:1980年、二十歳の時にパリの美術学校に行きました。向こうの美術学校って割と自由で何をやってもいいですよね。それはそれで面白かったんですけど、アートで食べていけるんだろうかって考え始めて。
ある時、知り合いに連れられて行ったパーティーをきっかけに、当時アンフォルメル(否定形具象)運動に参加していた今井俊満氏を紹介してもらったんです。抽象画にも興味がありましたし、アーティストとして成功している人はどういう人なのかも興味があって弟子入りしたんです。
それから、向こうでフレスコ画などやりながらアーティストとしての生き方を模索していたんですが、そのうちに日本の伝統的な美学の方に可能性を見出して、帰国後、日本画に転向しました。
なんといっても日本画の岩絵具って色が本当に綺麗でしょ。これは他では出せないなと思っています。

榮:フレスコ画をやっていたことが、今の寺院の壁画や天井画などに活かされているんですね。その当時、絵画でパリに留学していた日本人ってきっと少なかったですよね。

哲叡さん:音楽とか言語学の分野ではいましたけど、絵画でヨーロッパに留学していた人はまだ少なかったですね。出国の時胴上げされました(笑)

モノから感じとった“印象”を描く

榮:先ほど岩絵具のお話が出ましたが、使う画材に何かこだわりはありますか?制作のプロセスなどについてもお聞かせください。

哲叡さん:テクニックに関しては、色んなことを実験して制作に落とし込んでいるんですが、例えば金魚の白い部分って厳密に言うと白じゃないですよね、いろんな色が混ざっている。それを自分の中に落とし込んで、下地に金を塗ってみたり、雲母や胡粉を混ぜてみたり、それでも深みが出なかったら綺羅を足してみたりなど、色々試しながら描いています。

僕の場合、モノの形を正確に捉えて描くというよりも「モノから感じとった印象」を自分の中で咀嚼して表現するという方に重点を置いてます。金魚も鱗などは描いていないけれど、雲母などの輝きを使ってそれを表現したりとか。
燕子花でも紅葉でも、どんなものにでもどこか垢抜けた、突出した部分があると思うんですよね。そういう部分を自分の中で色や形を置き換えて、誇張して描いています。

色に関してはわりと厳選していて、自分の中で自分らしく表現できる色が見つかったなと思うのは赤、青、白系統ですね。緑はまだチャレンジ中です。

榮:そうなんですね。たしかに哲叡さんの描く金魚は、リアルというよりもどこか幻想的なイメージの中の金魚のように感じられます。泳いでいるというか優雅に浮いているようにも見えますね。
そして岩絵具がずらっと並んだ棚も、なんだか実験道具のようで面白いです。

哲叡さん:(中から一つ瓶を手に取り)この色が一番お気に入りで、極上の青というのものです。
ケミカルなものだったり色々組み合わせて使っていますが、やっぱりこういった天然の良いものを一度使うと手放せなくなりますよね。色の発色や輝きなんかが全然違ってくるんですよ。

実験道具のような岩絵具の棚

榮:さて最後に、インドでの巨大壁画の制作や、ベントレーとのコラボレーションなど国内外で幅広く活躍なさっている哲叡さんですが、今後挑戦してみたいことなどはありますか?

哲叡さん:大それたものよりも、どちらかというと色んなところを旅して回りたいなと思っています。行きたい国とか場所に行ってその土地にあるギャラリーに売り込みして、そうやって絵を描きながら暮らして世界を回りたい。

榮:その暮らし方もの凄く良いですね!私も憧れます。

哲叡さん:それをやろうと思っていた矢先に、新型コロナウイルスが大流行してしまったので、今年開催予定だったフランスでの個展も中止になってしまって、残念です。
でも世の中捨てたものじゃないなと思うのは、何年も前に資料を置いて行った海外のギャラリーから突然連絡があったり、どこかのレストランで自分の作品を見たという方から連絡があって作品を購入してくださったり、いつどこで機会があるか分かりませんね。

榮:またいつか海外に行けるようになったら、哲叡先生の絵描き旅のお話も聞いてみたいです!

個展「アルモナージュな世界」は7月4日まで(月曜定休)開催しています。ぜひ日本画の魅力をご堪能ください。

記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

哲叡 / Tetsuei

1960 東京に生まれる
1980 渡仏。今井俊満に師事する
1981 Maison du Japonにて初個展開催
1982 一時帰国。しばらく日本とフランス(パリ)を往復し創作活動に励む
在日フランス大使館、文化参事官に作品を寄贈する
1987 帰国
1997 茨城県(神栖)にて、温泉施設を総合プロデユースし建築内に大天井画を制作
1999 大日本印章が経営するレストランに延べ30mの壁画制作
2000 東京都内の個人宅のワインセラー前に7mの壁画制作
2002 名古屋ウエスティンキャッスルホテル「クラウン」の特別室に作品を制作
2003 浜松市「フラワーパーク」にオープニングイベントの為のオブジェを制作
2003 名古屋市「ランの館」にオブジェを制作
2003 豊田駅前にインスタレーションイベントの為の作品を制作
2004 三重県芸濃町、町役場のメインロビーに作品を出展   
2004 大阪府、金禅寺(禅宗)に障壁画を制作
2004 名古屋市、海岸寺(天台宗)に障壁画を制作
2005 天台宗総本山、比叡山延暦寺(延暦寺会館)に障壁画を制作
2006 インド、禅定林本堂にて天井画、壁画を制作
2007 アートエキスポ(ラスベガス)に出展
2012 フランス(パリ)で個展開催
2013 日本橋三越本店で個展開催
2013 東海テレビ開局55周年アートアクアリウム展 ~名古屋・金魚の雅~に「KINGYO」出展
2016 北海道札幌市 祥龍寺に天井画・襖絵を制作
2019 名古屋 JILL D´ART GALLERYにて個展開催

アーティストページはこちら


哲叡 個展
アルモナージュな世界
2021年6月19日[土] – 2021年7月4日[日]

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