むろまいこ
作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
記念すべき第10回は現在個展「解き放つLIBERAR」を開催中のむろまいこさんにインタビューさせていただきました。弊廊で展示頂いてもう長いお付き合いのむろさんですが、今回初めてのインタビューです。
作品の彩りとむろさんの優しいお人柄も相まって、とっても和やかな心温まるひとときでした。ぜひご一読ください。
ー 今回、解き放つLIBERARという強いメッセージ性のあるタイトルとなっていますが、このタイトルにした想いをお聞かせください。また、新店舗になってからは初個展ですが何か意識した点はありますか?
むろさん(以下敬称略):コロナ禍で皆さんどうしてるかなと考えていて。生活が変わった方もいるし、世界の情勢も色々変わっていて、そんな中で何かを変えていきたいと思うことってあると思うんです。
コロナ禍でなくても普段から何か変えたい、行動したいと思った時に最初の一歩が怖かったりなかなか踏み出せないことってあると思うんですが、もっと気楽に考えてみても良いんじゃないかなって。
きっとまだ自分でも知らなかった可能性がいっぱいあって、そういうものを解き放っていければ良いな、この展示がきっかけになれたら良いなという想いを込めました。
自分ではそこまで強いメッセージ性とは思ってなくて、気軽に一歩踏み出してみようよ、という前向きな感じですね。
ジルダールの印象はより広くなったのと、以前より自然光が入って良いなって思いました。ジルダールが新しくなってこれからどんどん広がっていって欲しいという想いもこのタイトルに込めました。
ー うれしいです!ありがとうございます!
メキシコが与えてくれたもの
ー メキシコでアートを学ばれていましたが、メキシコを選んだ理由と、また行った前と後で作品に変化はありましたか?
むろ:元々ラテンの文化に興味があり、ラテンの国に行ってみたいなというのがあって。ただ最初はメキシコと決めていなくて、日本から中南米のメキシコに渡り、そこから南下していきつつ気に入った国に滞在しようと思っていたんですが、結局そのままメキシコに居着いちゃいました(笑)
その後色々探して大学を受験したんですが、美術学校自体がメキシコにあまりなかったので受ける人が多くて、前の晩から並んで受験票をもらいに行ったりしましたね。
ー すごい経験ですね。
むろ:メキシコ行く前は作品らしい作品は実はあまり作っていなくて、向こうで学びながら本格的に始めました。いろんな素材を使って、わりとコンセプチュアルなものを作ったりもしていて。とにかく向こうでは作りたいものがどんどん出てきて楽しかったんですけど、逆に帰ってきてからは困っちゃいましたね(笑)
ー メキシコでの日々がとても刺激的だったんですね。
むろ:そうですね。それに外国人でいられる気楽さみたいなものがあったのかもしれないです。あと向こうって本当に良い意味でも悪い意味でもいい加減で、メキシコに行った一番の収穫はいろんな事がどうでも良くなる(笑)そこが一番良かったかなと思います。
ー 私もスペインに居たことがあるのでラテン文化はなんとなく分かります。色んなことを受け入れられるようになりますよね(笑)少しのことで動じなくなるというか。
むろ:はい(笑)それで帰国後に何を作ろうか困って、メキシコではどうだったかなと思い返した時に、自分自身いろんなことに元気をもらったんですが、その一つに「色」から元気をもらったなと感じて、そのあたりを手探りで表現していこうと思いました。
帰国後にKOBATAKE工房という彫刻の工房に通っていたんですが、そこで「手からの思考」という教えを学んで、その出会いも有り難かったなと。
ー 「手からの思考」とは興味深いワードですね。どういうものでしょうか。
むろ:私なりの解釈ですが、例えば制作していて行き詰まったり何したらいいか分からなくなることがあると思うんですけど、とりあえず手を動かしてみると何か次の道が見えてくるということかなって。
頭で考えられることって案外ちっぽけでそんなに大したことでは無くて、それよりもとにかく手を動かして見えてくるもの、降りてくるものをアウトプットしていくというか。自分を通してはいるんですけど、出てくる偶然性を大切にするというような考え方かなと思います。
ー たしかに、頭だけで考えすぎてかえってつまらないものになってしまうことってありますね。この作品点数(今回の展示数は100点以上)をモリモリ制作しているむろさんが目に浮かびました!
ー 先ほどメキシコでいろんな素材を使っていたとおっしゃってましたが、作品に使われているアマテ紙もそこで出会ったんでしょうか?珍しい紙ですよね。
むろ:はい、アマテはメキシコの伝統的な紙でマヤ・アステカ時代から使われているような紙なんですけど、メキシコにいる時はあまりにもメキシコ感がありすぎて、外国人である私が使っていいのかなと少し遠慮していたんですね。
帰国後も何度かメキシコに行き来していたんですが、ある時メキシコで作品制作をしないと日本での展示に間に合わない時があって、せっかくメキシコにいるからアマテ使ってみようかなと思って初めて使ってみたんです。そしたら自分の作品とすごく相性が良くて合っていて、もっと早く使えば良かったなって。
結局それも自分で勝手に使っちゃダメと決め付けていた部分だったので、一つ殻を破ることができて、またメキシコに助けられたなという感じでした。
作品が放つエネルギー
ー むろさんの作品といえば、物語性のあるものが多いように感じますが、普段どのようなことを考えながら制作していますか?
むろ:ストーリーが浮かんできて描くこともあるし色々なんですが、共通して思っているのは、見てくれる人が元気になって欲しいということですね。
その人それぞれの人生のストーリーがありますよね、作品もそれぞれストーリーがあって、それがいつかどこかで交差した時に、その人が必要としているエネルギーを作品から汲み取ってくれて何か良い刺激になったら良いなと思っています。
ー 十人十色のストーリーがあって、感じ方も様々ですもんね。とても素敵な考え方ですね。ちなみに制作前にラフを描いたりはするんですか?
むろ:それも色々ですね。描くこともあるし、描かずに進めていることもあるし、ラフを描いたのに全然違うものになる時もあるし。
作品全部を通して一貫したストーリーというのはなくて、それぞれで描いていくうちに出来上がっていっていく感じですね。あまり拘らずにやってます。
ー それでもちぐはぐにならないのは、元気になって欲しいという一貫した想いがあるからかも知れませんね。
題材についてはどうでしょう、木や鳥はよく出ていますが思い入れが強いんでしょうか。
むろ:そうですね、木は元々好きで以前住んでいたところにも自然がいっぱいあってそこを歩くのが好きでしたね。鳥も好きでなんとなく増えていったんですが、鳥っていろんな国や文化であの世からの使いだったり使者だったり、幸せを運んでくれたりと、いろんな役割を持っていることが多いので、絵にあることでガイドしてくれるような導いてくれるような感じがして。
やってる時はわからないんですが、後からだんだん意味が付け加わっていくというか、しっくりくることもありますね。
植物や動物が題材になることが多いですが、そればかり作っているのも不自然な気がして、最近は人物も少しずつ取り入れてます。
ー では最後に、今後挑戦してみたいことや描きたい題材などがあれば教えてください。
むろ:描きたい題材はまだわからないですが、抽象画とかモノクロも挑戦してみたいなと思っています。
ー おー!それは面白そうですね!常に変化しているむろさん。抽象画もすごく楽しみです!
むろ:どうなるかわからないですけどね(笑)
そんなことをちょこっと考えたりしてますね。
まだまだお話ししたいことはたくさんありましたが、今回はここまで。
むろまいこさんの個展「解き放つLIBERAR」は12月19日(日)まで(月曜定休)開催しています。優しさに溢れたむろさんの作品たちをぜひ見にいらしてください。
記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎
むろまいこ / Maiko Muro
1996年 獨協大学外国語学部英語学科卒業。
1997年〜約4年間、メキシコに滞在。メキシコ国立芸術院直属絵画・彫刻・版画学校ラ・エスメラルダなどでアートを学ぶ。
2001年 帰国後、KOBATAKE工房にて彫刻を学ぶ。
2001年〜 アートユニット”TALLER LA COCHERA”としても活動。
現在はソロ活動。
2014年 夏から1年間、玉川高島屋S・C 南館エントランス アートウォール(東京)にてパブリックアートを設置。
2015年 TOYOBOカレンダーの絵を担当。
2016年 6月に絵本「ぼくのいちにち どんなおと?」(文・山下洋輔、絵・むろまいこ/福音館書店)出版。
2018年 LA ART SHOW (米国)出品。
2018年 坂田おさむさん(7代目うたのおにいさん)「My Mother’s Wedding」英語版video clip用アニメーション原画
「おかあさんといっしょスペシャルステージ2018」オープニングアニメーション原画
2019〜21年 「えいごであそぼ with Orton」( NHK Eテレ)マンスリーソングのアニメーション原画(2019年1月、2020年2月、2021年1月)
各地で個展開催。
鮮やかな色彩と自由な作風で、陶やメキシコのアマテ紙など様々な素材をミックスして制作。海外経験や日常で培った独特な世界観を立体/平面作品で表現しています。