久野 彩子

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第9回は現在個展「Rebirth」を開催中の久野 彩子さんにインタビューさせていただきました。無機質な金属という素材を使いながらどことなく有機的な不思議な印象を感じさせる彼女の作品。
作品への想いや彼女自身の魅力に迫りました。ぜひご一読ください。

ー ジルダールでは二回目の展示で初個展となりましたが、何か意識した点はありますか?

久野さん(以下敬称略):新しい店舗で広い空間になり、しかも一人でやるということだったので一度下見に来たんですが、壁面が多いと感じたのとクリーンな印象を受けました。
なので壁面作品を中心にしたのと、私の作品的にシックなものが多いんですが、今回は「崩壊」だったりをテーマにというよりは、タイトルである「Rebirth」の通り新たに生まれるような、プラス思考のイメージを強く持って制作しました。

ー 破壊と構築というのが元々制作されているテーマですね。

久野:そうですね、scrap and build(スクラップアンドビルド)を繰り返している都市空間をテーマに制作しているんですけど、そうなると「破壊」の方が多いイメージなのかなと思って。ただこのコロナ禍になり都市が止まっているようなところから、生活様式も変わっていって。そんな中でも自然界は変わらずに動いていて、その光景が私の中で印象的に映りました。
普段植物や生物を作る習慣ってあまりないんですが、生きているというか「発生している」というようなプラスなイメージを作品に落とし込めたらいいなと思いました。

無機質な金属で有機的な作品を生み出す

ー 久野さんの作品といえばやはり都市空間のイメージが印象的なんですが、そもそも作り始めたきっかけは何かあったんでしょうか?

久野:ずっと東京に住んでいるので自然いっぱいの環境にいなかったというのは大きいですね。虫とかあまり好きじゃないし(笑)昔から人工物が好きだったんです。
人工物って自然と比べるとどうしてもネガティブに捉えられがちなんですが、私の中では少しずつ作り上げられて発展させてきた人工物も偉大だなと感じていて。
大学の頃に鋳造技法をやり始めたんですが、金属も建築部材や工業製品などに使われますし、こういう人工的な作品と相性がいいなと思ってそれ以降ずっと続けています。
学生時代は大きいものを作れた環境にあったんですけど卒業後はなかなかそういう訳にいかなくなったので、細かいパーツを作りそれを繋ぎ合わせて一つの作品を作るという今のやり方になりました。

ー 制作工程も気になっていたんですが、細かいパーツで作っているんですね?

久野:ワックス原型と言って蝋で作品全体の原型を作ってから、金属に置き換えているんです。
機械に入れる兼ね合いで5×10cm角くらいまでの大きさにしないといけなくて、そのサイズを一塊として繋ぎ合わせて作品を作っています。なのでよーく見ると分割線があるんですよ。もちろん、分からないように作っていますが。

ー パズルみたいに少しずつ繋ぎ合わせているんですね。全く分かりませんでした!作り始める前に完成図などはあったりするんでしょうか?

久野:実はあまりないんですよね。土台となるものに這わせたり浸食させたりしている作品が多いので、自然発生的に作っているというか。
原型が蝋なのでわりとカッターで簡単に切れるんです。金属だとそうはいかないですが蝋は加工がしやすいので、設計図などは作らずにどんどん足したり取ったりを繰り返していって、最終的なものを鋳造屋さんに依頼します。

なるほど、蝋で全体の形を完成させてからバラして依頼に出すんですね。

久野:細かいものはそうですね。大きいものに関しては厚みが最低でも3mmはないといけなかったりするので、一体化したものを鋳造に出してます。
細かいものは1mmとかジュエリーを加工するのにも使う技術なので、より精密な作品が作れます。
鋳造と聞くと銅像のように重いイメージがどうしてもあると思うんですけど、それを変えたいなと思っていて。軽快さや動きを出すには精密鋳造の方が相性がいいですね。

ー 確かに、久野さんの作品って金属なんですけど動きとか浸食している感じとかが細胞みたいというか、なんだか有機物のような印象を受けます。そういう想いから来ていたんですね。

ー 個人的に気になっていたんですが、どことなく近未来っぽい印象を受けるんですが、どこかイメージしている都市はあるんでしょうか?やっぱり東京なんですかね。

久野:んーイメージしている都市は明確にはないんですが、凄い高いところから俯瞰して見た都市のようなイメージですかね。都市でいえばやっぱり東京になるのかな。あとはSF映画とかも結構好きなので、宇宙船や未来の乗り物、スペースコロニーみたいな。そういうものも影響しているかもしれません。

ー 制作環境についてお聞かせください。どのようなところで制作していますか?

久野:「ART FACTORY城南島」という株式会社東横インが経営しているシェアアトリエスペースがあって、そこで蝋原型を作っています。出来上がったものを鋳造屋さんに依頼に出して、戻ってきたものをまたアトリエで組み合わせて、火を使ったりもするので何かとスペースは必要ですね。

ー 作業工程的には同時進行でいくつかの作品のパーツを作っていくんでしょうか?それとも一作品丸ごと完成させてから次に取り掛かるんですか?

久野:同時進行できなくもないんですが、本当にパーツがどれがどれだか分からなくなるくらい、大きいものだと20パーツとか結構膨大にあって大変なので、基本的には一作品ごとに仕上げていきますね。
一度組み立ててからバラして鋳造屋さんに出しているとはいえ、届いた時に少しかけていたり組み立てた時に隙間が空いてしまったりということが時々起こるので、そういう時は追加でパーツを頼んだりもします。依頼してから出来上がるのに大体一週間くらいかかるので焦ります(笑)

偶然性を取り入れる

ー では最後に、近年芸術祭に出展されたり活躍の場が広がって行っている久野さんですが、今後やってみたい事や目標などはありますか?

久野:んー設営直後なのでなかなか思いつきませんが(笑)でも別素材と金属との組み合わせを最近やっているんですが、これをもう少し突き詰めていきたいですね。

ー DMで使われた作品「grow」も、様々な素材を組み合わせてますね。

久野:これは金属とモルタルをアクリル樹脂でコーティングしたものですね。まず土台となるモルタルの球を作り、できたモルタル球に沿わせながら蝋原型を作り、できた蝋原型を鋳造し金属に置き換え、組み立て・着色・仕上げをしてモルタル球と金属を一体化させ、それを球形の型に入れ、アクリル樹脂を流し込んで固めるという流れです。

ー 凄い工程数ですね!そしてアクリルってこんなに綺麗になるんですね。

久野:アクリルが固まった後さらに磨いてます。本当は中に気泡が入らないイメージだったんですが、モルタルに空気が残っていたのか開けてみたら気泡が入っていて。アクリルが硬化している間に熱も結構出るので、型の中で何が起こっているんだと思うんですが外からは見えないので分からない(笑)
ただ結果的に空気が入ったのも、これはこれで動きが出て良い感じだなと思ってます。

というのも私がやっていることって、積み重ねて出来上がるものなので偶然の産物にはならないんですよね。なので何かひとつくらい偶然性というか意図しなかったことが入っても良いのかなって。常に手垢がついたものっていうのも面白味に欠けるかなと思いますし。
そういう意味では鋳物も、金属になるまでどうなるか分からない面白さがあるのかなと思いますけどね。
偶然性を良い感じに作品に取り込んで行けたら良いなと思っています。

DMに使われた作品「grow」。気泡が水の泡のようで美しい。

ありがとうございました!

久野彩子さんの個展「Rebirth」は11月14日(日)まで(月曜定休)開催しています。久野さんの洗練された作品群をぜひ見にいらしてください。

記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

久野 彩子 / Ayako Kuno

都市の建造物や人間が作り出してきたものをモチーフに、金属で緻密な表現を可能とするロストワックス鋳造技法を主に用い、作品を制作。
創造と破壊、構築と再構築という、人々が繰り返してきた行為の儚さや脆さとともに、そこから生まれる力強さや希望、生命力、時間の流れを感じさせるような作品にしたいと考えている。

[パブリックコレクション]
金沢21世紀美術館

アーティストページはこちら


久野 彩子 個展
Rebirth
2021年10月23日[土] – 2021年11月14日[日]

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