向井 正一

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第11回は現在個展「FLAGSHIP BT」を開催中の向井 正一さんにインタビューさせていただきました!向井さんとベビテクターの魅力を存分に味わう時間になりました。是非ご一読ください。

※内容、写真の一部は昨年7月取材時のものです。

ー 今回3年ぶりのジルダールでの個展となりましたが、特に意識した点、前回と変わった点などはありますか?

向井さん(以下敬称略):今現状作っているメインのものを飾らせてもらえるということでタイトルを「FLAGSHIP」としました。(※FLAGSHIP:グループの中で、最も重要なものや優秀なもの。主力商品などを指す言葉として使われる。)
実は最近、制作環境を変えたんですね。以前は屋根付きのガレージを借りていたんですが、夏は暑いし冬は寒い(笑)。それでいろいろ考えて、自宅の6畳の部屋に作業しやすいように部屋を改造してそこで制作することにしたんです。
そうしたら場所を変えただけで不思議と制作の仕方が変わってきたんです。例えば塗装でいうと以前は缶スプレーを使っていたんですが、エアブラシに重きを置くようになったりとか。今回新作で持ってきたPRISMというシリーズはエアブラシでしかできないやり方で塗装しています。

ー 6畳と聞くと立体を作っている方だと少し手狭なような印象ですが。

向井:大きい作品を作るためなら広いスペースがいるんですが、ベビテクターならこのくらいで問題ないですね。よりコンパクトに細かい作業がしやすいようにシステマチックに改造してます。

ー 細かい作業がしやすくなったことで、より表現の幅が広がったんでしょうか。

向井:自分的にはそう思ってます。ベビテクターもちょこちょこ改良を加えています。

生まれてくる子を想い誕生した
「ベビテクター」

ー そもそもベビテクターが生まれたきっかけやエピソード、コンセプトなどを教えてください。

向井:元々僕も妻も東京でそれぞれ別の造形会社に勤めていましたが、子供が出来たら地元の大阪に帰りたいなと話していて。会社を退職したことをきっかけに、地元に帰って親父の仕事を手伝うことにしたんです。電気関係の仕事で電柱登ったりして、2年ぐらいは全く違うことしてましたね。
ただ子供が生まれた頃、ちょうど有線から無線に変わるような時代で、仕事が全然なくなってまして。子供が生まれて嬉しい気持ちはもちろんあったんですが、同時に自分はこのままで良いのだろうかという漠然とした不安もあって。こういう不安な気持ちが世間では子供の虐待に繋がっていくんだろうかって考えたりしていて。
それで前職の道具や素材がまだ残っていたので、子供に贈る気持ちと子供を守る想い、現状を変えるような想いで作品を作り始めたんです。

ー そうだったんですね。やはりお子さんが生まれるということで自然と「赤ちゃん」というモチーフに至ったんでしょうか。

向井:そう思います。ベビテクターっていったら少しユーモラスなんですけど、子供が生まれるまで僕そういうものが別に好きなわけではなかったんですよね。映画でいうとデイヴィッド・リンチのような、アングラっぽいものが好きだったんです。

ー 興味深いですね。ちなみに造形会社ではどんなものを作られていたんですか?

向井:通年ある仕事だと、仮面ライダーシリーズとかレンジャーものの作品のコスチュームを制作していました。社内でも、ええもん(ヒーロー)を作る班、ロボットを作る班、悪役を作る怪人班とあって、僕は怪人班に13年間いました。

ー 長年怪人を作っていたのに、ヒーローを作り始めたんですね!

向井:確かに!そうですね(笑)でもベビーで “悪もん” って、なんかあんまりイメージ湧かないですよね。

ー それもそうですね(笑)でもそう言われてみれば、ベビテクターの持ってるガラガラにトゲがあったり、チェーンがついてたり、ちょっと毒気があるようなところに怪人制作時代の名残がある気がしますね。

向井:そういうところに残ってるかもしれないです。汚し入れたりとか。

ー 最初は息子さんに贈るために作り始めて、その後どうやってお仕事に繋がっていったんでしょうか?

向井:一体目は息子にあげるために手元に残してありますが、シリコン型があったのでシリーズものとして何体か作っているうちに楽しくなってきて、作ったらやっぱり誰かに見てもらいたいなと思って。一番最初は東京のGEISAIというアートフェアに出したんです。
そしたら結構皆さんに楽しんでもらえて、自分も同行した家族も楽しかったし、来年もまた家族旅行兼ねて参加しようかなんて話していた時に、会場で大阪のギャラリーの方に声をかけられて、それがきっかけで色んなところで作品を展示するようになりました。
そこのギャラリーとジルダールのオーナーの田口さんが知り合いで、ジルダールでも展示させてもらうようになったんです。
これまでオーダーでも何点か作らせて頂いて、ありがたいです。

ー すごいご縁が繋がっていって、活動が広がっていってるんですね。

頭の中で描かれるヒーローたち

ー 今回こちらの要望で制作工程の動画を撮ってきていただいてありがとうございました。拝見したら思った以上に工程があって驚きました!制作の時に大変なこと、気を付けていることなどはありますか?

向井:大変さでいうと、動画には映ってないんですが最初の原型を作るところでしょうか。僕デザイン画を描かないので、頭の中である程度イメージして作りながら色々変えていったりします。よく展示する際に「一緒に飾りたいからアイデアスケッチも持ってきて」と言われたりするんですが、無いんです。描けないんですよね(笑)

ー デザインに起こさないのは驚きです!設計図のようなものがあるのかと思っていました。出来上がったら最初のイメージと全然違った、なんてこともあるんでしょうか。

向井:もちろんあります。多分これは前職のやり方が影響していて、会社にいた頃はデザイナーさんが描いたものを見ながら制作してたんですよね。怪人って一週間に一体必ず死ぬんで、単純に考えて一週間に一体作らないといけないんです。時間をかけていられないのでデザイナーさんも正面画しか描いてくれなくて、あとは制作側が考えて作るんです。じゃないと間に合わないので。
ええもんは大元の会社のチェックとかあるんですけど、怪人は無かったです。

ー なんだか怪人は少し切ないですね・・・(笑)でもその時の経験があったからこそ、設計図がなくてもスピーディーに仕上げる技が身についたんですね。制作自体で大変なことは無いですか?

向井:作っているときはわりと淡々としていますね。形にならんなぁとか、ちょっと作業しんどいと思う時もありますが(笑)完成したときの達成感や、購入してくださる方がいるということがモチベーションになっています。

ー では最後に、今後の展開とやってみたい展示・場所などがあればお聞かせください。

向井:作業的なところで言うと、シリコン型って複製できるんですが、やっぱり劣化していくので永遠に複製はできないんですよね。ベーシックな型でも今3、4個目くらいなんですが、もうそろそろ新しいデザインで新しい型を作らないとなと思っています。どんなデザインにしようかなってイメージを膨らませている時が一番楽しいですね。
展示したい場所というのはあまり無いんですが、何人かの作家さんにまっさらなベビテクターに絵を描いてもらって展示する企画をやってみたいです。なかなか自分が企画を詰め切れてなくて実現してないんですが、いつかやってみたいですね。あとやってみたいのは、何十体も壁一面にベビテクターをずらーっと飾ってみたいです。

ー それはきっと壮観でしょうね!ぜひ見てみたいです!楽しみにしてます。

向井さんの個展「FLAGSHIP BT」は1月30日(日)まで(月曜定休)開催しています。心優しきベビテクターの世界を堪能しにいらしてください。

記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

向井 正一 / Shoichi Mukai

1972年大阪出身。近畿大学文芸学部芸術学科造形美術専攻卒業。
レインボー造形企画入社。テレビ・映画・劇場等の怪人・怪獣コスチュームや 小道具制作に携わる。同社退社後、息子の誕生を期に作家活動を始める。
FRP樹脂やレジンキャスト等を用い立体作品を制作。
主に新生児をモチーフとした「ベビテクター」シリーズを制作中。

アーティストページはこちら


向井正一 個展
FLAGSHIP BT
2022年1月15日[土] – 2022年1月30日[日]

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