日の出ガラス工芸社

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第14回は少し足を伸ばして、富山県の「日の出ガラス工芸社」さんを訪問。ガラス作家として活動されている津坂陽介さん、久保裕子さんご夫妻にインタビューをさせていただきました。笑顔で迎えてくださり、緑あふれるお庭や手作りケーキでおもてなししてくださり、終始和やかなひとときでした。
作品についてたくさん伺い、津坂さんのレースガラス制作の様子を実際に見せていただくこともできました!ぜひご一読ください。

ー まずはガラスとの出会いを聞きたいなと思うんですが、そもそも始められたきっかけはありますか?

津坂さん(以下敬称略):高校生の時に陶芸を仕事にしたいと思って、まず習い事をしようと思って本で探し始めたんですが、吹きガラス教室の記事が陶芸より先に出てきて。当時テレビで俳優の方がベネチアンガラスを体験している番組を見たこともあり興味を持っていて、そこに通い始めました。高校を卒業後、富山ガラス造形研究所を受験しました。

久保さん(以下敬称略):私は元々ガラスが好きだったんですが、大学は武蔵野美術大学の基礎デザイン科だったのでモノを作るような実技はなかったんです。大学4年生の時にたまたまガラスの体験をやったらハマってしまって、その時ガラスのギャラリーに就職も決まっていたんですが、どうしても自分で作りたくなってしまって。富山でガラスを学べる学校があると知って大学卒業後に受験しました。

ー 就職をやめてまで!それは凄い覚悟ですね!
お二人はその学校で知り合ったわけですね。

工房に入ると、燕がお出迎えしてくれました。

日の出ガラスができるまで

ー 卒業してから日の出ガラスさんを立ち上げるまでにはどのようなことがあったんでしょうか?

久保:そこからはまだだいぶ色々あります。学校は2年間の修学だったんですが、ガラスって難しくて2年やったくらいでは技術的に全然仕事にならなくて。私は助手という形でそのまま学校に残り3年間勤めながら、仕事の合間に自分の作業をして技術を高めていきました。

津坂:僕は個人工房を作りたかったんですが、ガラスでも様々な携わり方があるので色々学ぶために、卒業後は先輩の工房でアルバイトをしたり、教育機関で仕事したり海外に行ったりと、結構点々としていました。

ー 海外はどちらに行かれていたんですか?

津坂:シアトルです。デイル・チフーリという、アメリカの人間国宝のような吹きガラスの方がいるんですが、その方の工房で仕事をしていました。
卒業後10年間はそんな感じで下積みのような形で色々試して、やっぱり個人工房が建てたいと思って、2010年に仕事の区切りがついたタイミングで「日の出ガラス工芸社」を設立しました。窯は先輩のところで学んだりしてたので、手作りで作りました。

ー 手作りとは驚きです!こだわりが詰まってますね。

津坂:予算のこともありますが、道具が特殊なので頼むにもなかなか頼めないんですよね。サイズとかも違ったりしますし。

久保:ここは彼の城ですね。富山市はガラス作家に様々支援してくださるので、コスト面を考えても私は共同で使えるレンタル工房でも良いかなと思ってたんですが、彼はどうしても建てるって言って(笑)

ー 個人工房は確かに夢がありますよね。対して久保さんはとっても堅実(笑)

久保:そうですね(笑)でもやるからには頑張ろう!って。

津坂:ありがとうございます(笑)

自然から生まれるもの

ー 作品について、津坂さんは福鳥、久保さんは文鎮に魚が泳いでいたりなど、動物や植物のイメージが多いですが、作品のモチーフはどのように選んでいるのでしょうか?またどんなところからアイデアを得ていますか?

津坂:僕は技術を身につけることから先に入っていて、伝統技法を使った器などを作っていたんですが、それだと昔からあるものの真似になってしまうので自分なりに何かアレンジできないかなと考えていて。
工房を建てた後少し落ち着いて周りを見た時に、動物がたくさんいることに気付いたんです。まず最初に目についたのが鳥たちで、そこで初めてレースガラスを組み合わせてみました。
自分が持っている技術を違うものに応用できないかなというのは常に考えていて、その結びつきに個性が出せたらなと思っています。

ー ジルダールでも大人気の福鳥や宙鳥シリーズはそうやって生まれたんですね。久保さんはいかがですか?

久保:私は小さい頃から生き物が好きなんですが、特に淡水の生き物が好きでゲンゴロウとか色々水槽で飼っていて。大人になって富山に来てからも金魚とか飼ってたんですけど、仕事が忙しくてなかなか上手に飼ってあげられなくて。
それで自分で覗いて楽しむために最初は作りました。ずっと泳いでてくれたら良いなと思って。

ー なるほど、そうだったんですね!
こちらもお客様に大人気で、動き出しそうって話が出てくるんです。

久保:最初はもっとシンプルなものだったんですが、水面を作るアイデアを思いついてから、どんどんリアルになっていきました。見る角度や光の加減でも印象が変わってくるのでそれが面白いかなって。お散歩に持って行ってくれるお客様もいらっしゃって。外で光に当てて楽しんでくださってるらしくて、嬉しいですね。

ー それは愛を感じますね。

久保:自然がたくさんあるところに住みたくて、本当は2年間勉強したら東京に帰る約束を両親としてたんですが、富山での生活が合っていてそのまま居着いてしまいました。お庭にも色んな植物を植えているんですが、年々来る動物や昆虫がどんどん増えてきて。ナチュラルガーデニングといって、自然に任せて育ててます。

ー インタビューしている間も鳥の声が聴こえてきて癒されます。きっと作品にも反映されていますよね。

久保:そうですね。そう思います。

ー ちなみに作品でいえばART NAGOYA 2022に出してくださった際に、津坂さんの「囁くものたち」というシリーズがいつもと違った雰囲気だったんですが、何か心境の変化があったんでしょうか?

津坂:元々職人になりたかったので器などを多く作っていたんですが、何でも作って良いっていわれたら結構オブジェとかを作るのが好きでして。作品の内容は、ネイティブアメリカンの考え方とかが影響しているかな。

久保:前にちょっと話してくれたのが、鳥たちは何か私たちに囁いてくれているんだけど、私たちはそれに気付いていない。でもとても大事なことを囁いてくれてて、それを形にしたんですよね。

津坂:そう、そんな感じです(笑)
一昨日も一人で歩いていたらイタチが前からやってきて、立ち上がってこっち見ていたんです。明らかに何か言っているような感じで。

ー なるほど、それでタイトルが「囁くものたち」なんですね。
そのうちイタチの作品が出てくるかもしれないですね!日々の生活が作品に現れていて興味深いです。

津坂:他ではあまり出さないようなシリーズなんですが、ジルダールさんは現代アートを取り扱うギャラリーさんなこともあり色々挑戦させていただいてます。

ー それは嬉しいですね。どんどん挑戦してください!

お庭には緑が溢れています。

ー お互いの作品でどんなところが素敵だなと思いますか?

久保:私は彼の作業の工程の丁寧さにとてもついていけないので、補助はアシスタントの方にお願いしてるんですが、彼は入学した頃から作業の所作がとにかく美しくて、同じように始めて学んでいるのにどうしてこんなに違うんだろうって。まるで刀で居合斬りする侍みたいに見えたんですよね(笑)

ー それは凄いですね!

津坂:一生懸命先生たちの真似をしてたんですけどね、上手い人は動きに無駄がないから。元々ものづくりが好きだったっていうのもあると思います。

久保:道具もすごく大事にするし、レースガラスは少しでも手を抜くと仕上がりが綺麗にならないので作業もひとつひとつ丁寧にしていて、それは始めた頃から今もずっ変わらなくて、そういうところが良いなと思います。

ー 津坂さんはいかがですか?

津坂:僕の仕事は古くからある技術を変化しながら作品を作っていますが、彼女の場合はまったくお手本がないところから作品を作っているので、その発想力が凄いなって思います。丁寧な仕事っていう意味では共通しているんですけど、内容は全く違いますね。

ー ガラスといっても表現は様々違いますが、お互いリスペクトしているのが伝わってきます。

ー では最後に、今後挑戦してみたいことはありますか?

津坂:挑戦してみたいことや新作に繋がるようなアイデアは時々降ってくるんですが、それを実現させる時間がなかなか無いので、まずはなんとか時間を作ることをしたいですね。書き留めたりしてても、やっと時間ができた時にいざそれを作ろうと思っても旬じゃなくなってるというか。パッと取り組めるようにしたいです。ART NAGOYA 2022に出展した「カモのデカンタ」なんかは思いついた後すぐに作品に移せたので、良かったなと思います。

ー カモのデカンタ、あれは大人気でした!

久保:あのシリーズはまた広がりそうですよね。

ー ぜひ広げていただきたいです! 久保さんはどうでしょう?

久保:私は日記みたいな感じで作品を作っているので、新しい発見したらまたそれを取り入れていきたいなと思っています。私が楽しかったことを共有して共感していただいた方に購入して頂けたら嬉しいですね。自然なかたちでやっていけたらと思ってます。

ー 日記という表現はとてもしっくりきますね。

久保:あとはもう少し浅瀬まで下って行って海の近くのものも作れると良いですね。ヒトデとかイソギンチャクとか。

ー それは絶対可愛いですね!見てみたいです。
これからも楽しみにしています!

インタビューの後、津坂さんによるレースガラスと器の制作を実際に見せていただきました。繊細で複雑な工程がいくつもあり、とても全てをお伝えできないのですが、ダイジェストまとめてみました。

※画像をクリックすると拡大して見られます。

日の出ガラス工芸社さんは「薫風展 Breeze II」(5月14日[土] – 5月29日[日])にも参加してくださいます。ぜひ爽やかな風を感じにいらしてください。

記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎(一部、日の出ガラス工芸社さん提供)

日の出ガラス工芸社の皆さん
津坂陽介さん、久保裕子さんとアシスタントの岡田さんと大塚さん


薫風展 Breeze II
久保 裕子 / 小坂 未央 / 佐々木 伸佳 / 高橋 つばさ / 津坂 陽介 / 花輪 奈穂
2022年5月14日[土] – 2022年5月29日[日]

JILL D’ART GALLERY

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