高橋つばさ × 花輪奈穂

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第15回は「薫風展 Breeze II」にご参加くださっている高橋つばささん、花輪奈穂さんに作品のコンセプトや制作への思いなどを伺いました。
ぜひご一読ください。

メイン写真左から高橋さん、花輪さん

ー 作品のコンセプトをお聞かせください。
まず花輪さんから、写真を重ねた独特の世界観が印象的ですが、この表現はいつ頃からやられているんでしょうか?またどういった思いで制作されてますか?

花輪さん(以下敬称略):写真を透けたものに加工して重ねるというかたちを始めたのは2012年からです。
それまでは普通に写真を印刷し額装したものを展示していたのですが、写真で立体を作ってみたいと思っていて。どうやったらいいだろうと1年くらいずっと考えていて、ある時、透明なものにプリントして箱に入れたら面白いんじゃないかと思いついて始めました。

ー 写真の題材はご自身の中で何か決まっているんでしょうか?

花輪:これまでは日常の生活に近いことを撮っていたんですが、ここ数年は光を湛えている植物や地面に落ちる影など、光に関係する被写体を撮ることが多くなっています。
タイトルに「phototropism」(フォトトロピズム)と付けているんですが、これは「光屈性」といって植物が光・太陽に向かって伸びようとする性質のことで向光性ともいいます。
コロナ禍になり自由に外に行けない中で、それまで苦手だった植物を育て始めたんですが、育ててみたらそういった性質が見ていて如実に分かっていって。
植物だけじゃなく、元来生物は光に向かって伸びていくものなんじゃないかと感じて、それで光屈性を英語で何ていうんだろうと思って調べてみたら「phototropism」ということが分かったんです。
「photo」というのは“光による”という意味もあり、「photo」が入っているというのも運命的に感じましたし、植物が光に向かう、そして私たち人も向かっているというのを表したくてこのタイトルにしています。

ー なるほど、とても興味深いお話ですね。ちなみにこの中でお気に入りの作品はありますか?

「phototropism – 逆光」という作品です。
最初は少し印象が弱いかなと思っていたんですが、設営して電気を付けてみたら一番自分が思っているように出たなと思います。
あとはアーチの作品「五月の証 – アーチ」も好きです。この写真はずっと使いたいなと思っていたんですがなかなかうまく合わせられなかったので、今回出すことができて良かったです。

私の作品をぼーっと眺めながら、ゆったりした気持ちになっていただけたら嬉しいです。

ー 花輪さんの作品は現在REAL Style HOMEにて開催中の企画展「Botanical Garden – 植物園」(6月12日まで)でもご覧になれますので、ぜひこちらもチェックしてみてください。

タイトル「phototropism – 逆光」
タイトル「五月の証 – アーチ」

ー では続いて、高橋さんに伺います。
高橋さんはペンや修正液などの文房具を使った作品が特徴的ですが、文房具へのこだわりはありますか?

高橋さん(以下敬称略):文房具は子供の頃に身近にあって使い始めたのがというのがきっかけです。今もその延長で使っているというのが大きいですが、工業製品ならではのジャンクな感じというかちょっとギラギラした感じが凄く好きで、それをさりげなく作品の中に織り込むことを大切にして、他の画材との組み合わせなどを行っています。
紙にボールペンで描くことから始まり、最近では修正ペンを使ったり木製パネルに油性ボールペンで描いたりと色々試しながら変化させています。文房具が表現できる繊細さは同時に弱点でもあるので、そこをどうやって克服するか、逆手に取ってどのように作品に表すのかということをここ数年は主眼に置いています。

ー モチーフについてはどうでしょうか。色でいうと青色が多く用いられていたり、抽象の中にも何か雲のような波のような形があるように感じられますが、色やモチーフに対してはどんな思いがあるのでしょうか?

高橋:何かをイメージしているというよりは使うペンの形や特性、どのような線が得意かというのを考えながら描いているという感じですね。
ペンでも筆っぽいものだったり、細い線や硬い線が描けるもの、塗りつぶすとインクが濃くなるものなど様々あって、こちらの「ドローイング」のシリーズは青色の油性ボールペンを使っていますが、独特な少しケミカルな艶感が出ます。
修正ペンは短い線を重ねて描くのが得意だと思うので、方向性とか流れの速さ、勢いなどを表現するためにこういった曲線はよく使っています。
文房具の持ち味を活かせるように、それに乗っかるような気持ちで描いています。

花輪:修正ペンでこんな線が描けるんですね!ちょっと衝撃です。

高橋:色については元々青色が好きなのもありますが、今回は季節の感じに合わせた色使いにしました。
白い線で描くというのは写真でいうとネガフィルムのような、白と黒が反転しているような気持ちで描いてます。先ほどの花輪さんのお話にも出てましたが、白って光のイメージというかネガとポジでいうならポジのイメージで、いわゆる白地に色ペンで描くのとはまた少し違った印象がありますね。

ー 明暗をつけることでより線が綺麗に際立つ感じでしょうか?

高橋:そうですね。あと修正ペンだと重ねて描けるので、光の層を重ねているようなイメージで、今までの絵を描くのとはまた違ったアプローチかなと思います。

ー 最後に、観に来られた方に何か一言ありますでしょうか?どんな風に観てもらいたいなどありますか?

高橋:自分の作品は身近なものを使っているので、使い方とか見てもらいながら、自分だったらどう使うかなって考えたり感じてもらったりしながら、楽しんでいただければ良いなと思います。
良い季節なので涼しげな気持ちになっていただけたら嬉しいですね。

薫風展 Breeze II」は5月29日[日]まで開催しています。
ぜひお二人の世界観を味わいにいらしてください。

記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

花輪 奈穂 / Hanawa Naho

1977年生まれ。東北芸術工科大学デザイン工学部映像コース卒業。
写真をアクリルなどの透過する素材にプリントし、レイヤー状に重ね合わせた立体やインスタレーションの制作を行う。
日常の過ぎゆく瞬間や視界の端にこぼれてもなお脳裏に残る記憶を蓄積し、新たな記憶のイメージを眼前に立ち上げることを目指している。

アーティストページはこちら

高橋 つばさ / Tsubasa Takahashi

画家。1983年生まれ。
東京学芸大学教育学部芸術文化課程表現コミュニケーション専攻卒業。
2004年よりゲルインキボールペンでの絵画制作を開始。
これまでに個展「芒種」(CASHI/東京、2015) 「小品展+1」(日本橋三越本店アートスポット/東京、2016)をはじめとして国内外で個展、グループ展多数。

アーティストページはこちら


薫風展 Breeze II
久保 裕子 / 小坂 未央 / 佐々木 伸佳 / 高橋 つばさ / 津坂 陽介 / 花輪 奈穂
2022年5月14日[土] – 2022年5月29日[日]

JILL D’ART GALLERY

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