野口健 × ユイ・ステファニー
作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第23回は現在開催中の6名による企画展 「薫風展 Breeze III」にご参加くださっている野口健さんとユイ・ステファニーさんに、ご自身の作品についてお話を伺いました。是非ご一読ください。
※メイン写真(左から):野口健さん、ユイ・ステファニーさん
ー まずは野口さん、ジルダールギャラリーで展示していただくのは約5年ぶりとなりますが改めて作品についてお聞かせください。いくつか作品のタイプがありますが、まずは代表的な作風からお話し伺えますか。
野口さん(以下敬称略)「こちらは乾漆技法という作り方をベースにしています。僕の場合まず発泡スチロールで形の元となる原型を作り、そこに麻布を漆で貼り重ねて固まったら中の原型を抜きます。そして表面に紐を漆で固めながら巻きつけて複雑な表情を作っていきます。最後に砥石や炭で研いで艶のある表面に仕上げます。」
ー 貼り合わせる段階や仕上げの段階など、それぞれ用途の違う漆を使い分けながら制作しているんですね。
野口「漆は糊と混ぜると接着剤のように使えたり、磨くことで艶が出たり、様々な使い方が出来るところが面白さだなと思っています。」
ー この紐を巻きつけて模様を作る手法は野口さん独自の技法なんですよね。始めたきっかけはあったんでしょうか?
野口「きっかけは大学の授業で漆を習いはじめたんですが、基礎を習った後に応用で色々試すうちに紐を使って立体を作ってみようと思ったんです。でも紐単体ではうまく形が立ち上がらなくて、それで乾漆技法と組み合わせてみたのが始まりですね。原型を作っている段階でなんとなく全体のイメージはあるんですが、紐の巻き方やうねり方で自分でも思わぬ表情が出てきて面白いです。」
ー かわってこちらの平面作品はまた印象が違って、漆らしい艶感がありますね。
野口「これは絵画的に表現した作品で、技法としてはオーソドックスな漆の技法を使っています。朱色の漆を施した後に飴色の漆を塗って磨いてを繰り返しています。研ぎ澄ますとこのように全く違う表情になるのも漆の魅力ですね。」
ー 作品の中に奥行きを感じるような不思議な感覚になりますね。これで大体どれくらい塗り重ねているんですか?
野口「んーどれくらいですかね。20層以上は重ねていると思います。」
ー 20層も!それは途方もない作業ですね!
ー そしてこちらの手漉き和紙の平面作品ですが、こちらはまた作風がガラッと変わってますね。
野口「こちらは、あるコンペの受賞者を対象にした異素材とコラボレーションする企画がありまして。その時に和紙職人の川原隆邦さんという方とコラボした作品になります。表面に凹凸が出るような漉き方が施してあって、その上から漆を塗っています。このワニ革を模した作品は「Forest leather」というタイトルを付けていますが、和紙は元々楮などの木の皮の繊維から出来ているし、漆も木の樹液から出来ているので“森の革”という意味でこのタイトルを付けました。」
ー 違う素材と組み合わせることでまた新しい表現が生まれて面白いですね。
野口「コラボするにあたり手漉き和紙の体験もさせてもらいましたし、僕が普段作るものともまた違う表現ができて楽しかったです。今後も何か一緒に展開していきたいなと考えています。」
ー 今後の展開も楽しみです!
ー それでは次にユイ・ステファニーさんにお話を伺います。ジルダールでは初めてのご紹介になりますね。
ユイ・ステファニーさん(以下敬称略)「よろしくお願いします。三重県で生まれ育ち、今も三重にアトリエを構えて制作しています。作家になったのは画材を持って沖縄にいって投げ銭をもらって生活してみようと思ったのがきっかけで。」
ー すごい!旅人ですね。元々抽象画を描いていらっしゃったんですか?
ユイ・ステファニー「以前は具象も描いていたんですが、そのもののフォルム、例えば動物だったら動物を形として認識してもらわないと私の想いって伝えられないのかなと考えた時に、そうじゃ無いなと思って。自分がそのものに対して惹かれるエッセンスを抽出して突き詰めていった結果、段々抽象的になっていきました。」
ー 一枚に何かモチーフになっているものがあるわけでは無いんですね。
ユイ・ステファニー「一枚の中に何を描くか、と考えるよりも制作全体を通して“何かを描かされている”ような、絵を通して自分自身が何かを見せられているような感覚になることがあるんです。なので心象風景ですかと質問されることがあるんですが、どちらかというと作品と私の間には距離があるんです。もう少し客観的に見ているようなイメージですね。」
ー 抽象表現をされている方って、自分の内面を描いているような印象を持っていましたが少し違うんですね。興味深いです。
ユイ・ステファニー「例えば旅先で現地の人に出会って関わる中で滞在制作することがあるんですが、滞在中その土地のものを食べ、その土地の空気を吸い込むわけですよね。そうやってその土地で生活して色んなものを吸収した自分がエッセンスを加えて絵描いて、生み出された作品を観た別の誰かが何かを受け取っていく。自分がいわば生活の循環の中に入っていって、そこからどんなものが生み出されるか知りたい。それが私のやりたいことだなと思っています。」
ー 循環の中に入っていくというのは、素敵なお話ですね。
ユイ・ステファニー「描きたいものが無いわけではもちろんないんですが、それよりも変わりゆく瞬間を捕まえるような感覚で描いています。流れに身を任せて描くのが心地いなって思っています。
今回持ってきた大きい作品も「Mutability」というタイトルで、“移りゆく・留まらない”という意味合いで付けていますが、イメージとしては絵画なんですけど音楽のような。あり得ないんですけど、今日と明日で絵が変わって観えるような作品が残せたらなと思ってます。作品を描く上で同じ状態でずっと残しておくことって難しいと思うんですけど、初めから能動的に動いて観えるような作品を残してみたいというのが最近思うところです。」
ー 空間や時間を感じさせる作品だなって、お話を聞いてより感じました。
ユイ・ステファニー「私の考えも日々どんどん変わっていくので、絵を描くことで自分自身が絵から色々教えて貰っているような気がしますね。」
ー 今回の企画にもぴったりの作品で、ご参加いただけて良かったです!
ユイ・ステファニー「ありがとうございます。私も普段こうして色んなジャンルの方と展示させてもらうことが無いのでとても新鮮で楽しみにしていました。野口さんのお話も興味深いですし、どの作家さんの作品も素敵で色んな刺激を受けますね!」
ー またこの企画をきっかけとして新作が生まれたら嬉しいです。
お二人がご参加くださっている企画展「薫風展 Breeze III」は6月11日[日]まで開催しています。爽やかな初夏の風を感じにいらしてください。
インタビュー:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎
野口健 / Ken Noguchi
主に漆を用いて、乾漆技法を中心に、うつわや立体作品を制作。
漆の持つ艶や造形性など、素材の持つ様々な魅力に惹かれている。
この古くからある自然の素材と向き合い、現代において自分を通してどのようにその魅力や可能性を表現できるかを模索し制作している。
ユイ・ステファニー / yui.stephanie
修行僧だった祖父の影響から、この世の成り立ちや概念的なものに興味を持ち、抽象的な画面に見られる線や色、間やリズムを持って掘り起こされ見えてくるイメージからどこか物語を感じさせる作品作りを行う。
ペインティング制作を中心に、ワークショップや60mの壁画、駅やプールなどへの巨大な作品も多く手掛けダイナミックに活動を展開する。近年は全国様々な場所に赴き、その土地に滞在しながら制作するスタイルを積極的に行い、絵を描く事を通して世界の懐の深さ、美しさを見つめている。