一色智登世 × 中村公紀

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第22回は現在開催中の企画展 「Melodic Landscapes – 情景を重ねて」にご参加くださっている一色 智登世さん、中村 公紀さんにお話を伺いました。
とても和やかなインタビューとなりましたので、ぜひご一読ください。

※メイン写真(左から):中村公紀さん、一色智登世さん

ー まずは簡単な自己紹介と作品のコンセプトなどを教えてください。

中村さん(以下敬称略)「中村です。元々は大学で工業デザインを学んでいたんですが、学ぶうちに商業的なものよりもアートのほうに興味をもちはじめて、学科に画家の先生が居たこともあり絵を描き始めました。
作品は少しデザインっぽいというか、写真をパソコンに取り込んでフォトショップで部分的に消したり抽出したりなど、分解・構築作業を繰り返し、その組み合わせで出来たものをキャンバスに描いています。」

ー コラージュのようですね。初めからそのような手法で取り組んでいたんですか?

中村「初めは抽象画を描いていたんですが、自分から湧き出てくるイメージを描くって限界があるなと感じていて、パーツを借りてその組み合わせでイメージを形作っていくというか。既にあるものをバラバラにして再構成することで全く異なるイメージが出来上がって、観た方によってもまた違う印象を持ってもらえるので面白いかなと思っています。」

ー 一色さんは前回の企画展「Dance, Dance, Dance and Dance」(2021年)にご参加くださった際にもお話を伺っていますが、改めてお聞かせください。

一色さん(以下敬称略)「私は大体の作品タイトルに「seed」(種)と付けているんですが、東日本大震災をきっかけに「seed=始まりのかたち」というものを作り始めました。元々「種」って根源的なものという意味合いでテーマとして面白いなと思っていたんですが、震災以降は色やかたちなど出来るだけポジティブなものを自分から撒いていこうと、より意識するようになりました。
作品としては先ほど中村さんも仰っていたように、見たものや経験したことなどからイメージを形作っていて、それが誰かの経験や記憶と繋がっていけば良いなと思っています。具象であり抽象でもある作品だと思っています。」

ー アプローチの仕方は違うと思っていましたが、お二人とも共通するものがあって面白いですね。

中村「そうですね。“こう見える”ということは自分ではあまりいいたくなくて。いってしまうとその様にしか見えなくなっちゃうので。だからタイトルも記号のようにしてそこまで意味を持たせないようにしています。観た人の記憶や経験などとリンクして観る人それぞれで作品が変化していくと良いなと思いますね。」

ー お二人とも植物をモチーフにした作品ですが、取り組むきっかけはあったんでしょうか?

一色「植物そのものにはそこまでこだわっていなくて、実は子供の頃から間取りとか見るのが好きで、空間や建築が好きでした。高校生で陶芸に出会ってそちらに進むんですが、一つのものを作るというよりも空間そのものを作るということを意識していますね。直接的ではなく“有機的ななにか”を作っているような感覚です。」

ー 中村さんはいかがですか?

中村「子供の頃から植物は好きでしたが、宇宙とか生命の誕生みたいな神秘的なもの全般が好きで。植物も拡大してみると葉脈のかたちや螺旋、要素が意外と宇宙っぽいというか。そういったところでディテールというよりも存在として面白いなと思ってモチーフにしています。」

一色「分かります。私のドット柄も顕微鏡を覗いたときに見える皮膚とか細胞のようなイメージです。」

ー なるほど。今まで植物と思って作品を観ていましたが、今の話を聞くと宇宙空間のようにも見えてきました。

ー 今回の展示タイトル「Melodic Landscapes – 情景を重ねて」というところから何か意識されたことはありますか?

一色「前回の展示もそうですが今回もまた素敵なタイトルをつけていただいて、作品にピタッとくるというかイメージしやすかったですね。自分自身個展をやる時にも必ず展示タイトルをつけるんですが、テーマに合うような面白い作品や空間作りをしたくて、そこはずっと一貫している部分ですね。
今回展示している平面作品は春の季語とか調べたりしてあえて作品一つ一つにタイトルをつけてみました。言葉とか色から受け取る印象とタイトルを重ねてそこからイメージを膨らませていろんな解釈をしていただけたら良いなと思ってます。」

ー 確かにタイトルが物語的というか、情景が浮かんできそうで素敵だなと思ったんですが、こちらはタイトルを先に決めてるんですか?それとも作品が完成した後にタイトルをつけているんでしょうか?

一色「両方あります。昔から再構成するのが好きみたいで、言葉やかたちなど一つ一つ違うものをいじって遊びながら作っていく感じですね。」

ー 中村さんはいかがでしょうか。今回の展示タイトルから意識した点はありますか?

中村「少し前から作品が風景っぽくなっていたというのもあってちょうど合うタイトルだなって。先ほどいったように植物を組み合わせて作品作っていくんですが、それを乗っける土台のようなものを空間っぽくしています。」

ー 昨年のART OSAKA 2022で初めて作品を出展して頂きましたが、また印象が変わりましたよね。

中村「そうですね、展示タイトルをいただいてから取り組んだ新作に関しては春っぽい華やかさを意識して制作しました。今まで渋い色が多かったんですが普段あまり使っていない色を使ったりして軽やかにしてみました。渋くならないようにタイトルや季節感を意識したことで今までと違った雰囲気が出せたと思います。」

ー タイトルからイメージを膨らませていただいたことで、より空間として調和が取れているように感じます。

ー 今回の展示作品の中でも特に思い入れのある作品があれば教えてください。

中村「タイトルに“Angelonia lcc-”とつく新作が数点あるんですが、こちらは新しい手法を試してみました。ドローイングした線をパソコンに取り込み、一部分を拡大して作ったものです。以前からドローイングのシリーズはあったんですが今回制作工程を少し変えてみました。以前は線を強調したものだったんですが、新作ではイメージとしては作品の中に空間があって、それを白い布で包み込んでいるような感覚で描いていて、個人的にはうまくいったかなと感じています。
中身に重力がない様な、うまくいえないんですが銀河鉄道999の車掌のように空間に服を纏ってるみたいな(笑)」

ー なるほど、分かりやすい例えです(笑)白い面の中にさらに奥行きを感じるような作品ですね。

一色「キャンバスに厚みがあるから余計に空間を感じますね。キャンバス の形が違っても面白そうって勝手に想像しちゃいます。立体になってたりとか。」

ー 立体作家さんならではの発想ですね!

ー 一色さんはやはり平面が新しく取り組んだものになりますか?

一色「平面作品自体は以前から作っていたんですが、今回のタイトルから窓の外の風景を眺めているようなイメージにできたらなと思って改めて作りました。ご一緒するのが平面作家さんということだったのでそこも意識して、大きめの平面作品も作っています。」

ー 展示する前は、中村さんはカチッとしていてデザイン的で一色さんはもう少しパッションで制作しているという印象を持っていましたが、お話を伺っていくととても共通する部分が多くて、それが今回の心地よい空間に繋がっているなと感じました。

一色「自由に鑑賞して欲しいと思っているので、今回一緒に展示する方が中村さんで良かったです。」

中村「そうですね。見方に正解はないですから。」

お二人の情景が心地よく響き合う企画展「Melodic Landscapes – 情景を重ねて」は4月16日[日]まで開催しています。ぜひ心を解放しにいらしてください。

インタビュー:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

一色智登世 / Chitose Isshiki

⼤阪府⽣まれ。⼤阪芸術⼤学 ⼤学院 博⼠前期 芸術制作 修了。
陶器を主なメディアに、SEED / はじまりのカタチとしての種をイメージの中⼼に制作を⾏う。 物事のはじまりであり、命のはじまり、さまざまなものにひそむはじまりのカタチを表現しながら、鑑賞者の想像や記憶・共感などを呼び起こすような創作活動を続ける。

中村公紀 / Ko-ki Nakamura

埼玉県出身。
千葉大学工学部工業意匠学科でインダストリアルデザインを学び、同大学院でデザインの造形的側面を研究するとともに絵画作品の制作を開始。個展を中心に作品を発表。2010年頃より制作し始めた、路上等で撮影した植物の写真を分解・再構成したイメージをペインティングした作品は、植物が元々持っている形を組み合わせることで、新たに表出した微かな既視感のあるイメージが、各々の視覚体験を通して記憶や感情を刺激する。


Melodic Landscapes – 情景を重ねて
一色 智登世 / 中村 公紀
2023年4月1日[土] – 2023年4月16日[日]

JILL D’ART GALLERY

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