葉栗 里

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第24回は現在個展 「Sleep on the Seabed」を開催中の葉栗里さんにお話を伺いました。研ぎ澄まされた表現、木彫への想いをお聞きすることができましたので、是非ご一読ください。

ー 3年ぶりの個展開催となりましたが、まずはタイトルについてお聞きしたいと思います。どんなイメージで付けられたのでしょうか?

葉栗さん(以下敬称略)「このタイトルは、作品の発生源をイメージしています。私が作品を作る一番最初の動機って、コンセプトを考えるというより“この形いいな、作ってみたいな”というようなモチーフのビジュアルに惹かれて制作し始めるんですね。
モチーフはひとつだけにすることより、何かと何かを組み合わせた構成にすることが多いんですが、その時私が興味を持ったもの同士を合わせていく感じなので出来上がるまで私自身も最終形態が分かっていなかったりするんです。」

ー 先に完成イメージを思い描いているわけじゃ無いんですね?

葉栗「そうですね。もちろん彫刻ですので自立することを前提として、構造的に可能だと頭の中で分かったら作り始めています。でも細かい形は決めずに始めるので、制作の終盤になると開始時には想像もしていなかった雰囲気になって驚くこともしばしばです。
その感覚が、私にとっては夢を見ている時の感覚に近いんです。夢を見ている時って次がどんな展開になるか分からない。だけど自分の脳内で見ているんだから元々は自分の中にある記憶から来ているんだよな、と不思議さも感じる。普段認識できない深層を探るような感覚かもしれません。
タイトルの「Seabed」は深海という意味があるんですが、深海にはまだ未発見な生物がいたり未知の世界が広がっていて、まだ私たちが知らないだけで確かに何かがそこにいる。その深海の存在と、寝ているときに見る夢。それらに作品制作のプロセスを重ねて“Sleep on the Seabed”というタイトルにしました。」

ー 完成図が無いのは驚きました。完成のタイミングって感覚的にわかるものなんでしょうか。

葉栗「彫り進めてから終盤に差し掛かるほど作品が自分の手から離れているような感覚になるんです。自分が作っているようで作っていないというか、作品が出来上がるためのお手伝いをさせて貰っている気分になります。自分の予期しない展開になっていくのが制作の楽しいところです。
完成のタイミングは、今まで作ってきた作品と比べて“さらに先の段階”に行ったと感じた時でしょうか。それが次の作品を作る際の目安になるので、作り続ける中で毎回それを更新していきたいと思っています。」

ー 近年、作品の表情がよりリアルになって意思を持っているような力強さを感じるんですが、それも先ほどの話に通じていますか?

葉栗「そうですね。以前は自分の脳内に浮かぶぼんやりとしたイメージをそのまま表現できたらいいなと思っていて、瞳なども入れず具体的な形態にはしていなかったんです。ただ制作を続けていくうちにそこで停滞していては次に進めないというか、その先に何があるのか見てみたいと思って。見えていなかった部分を探ることを始めてから、どんどん彫り減らして鋭利な形を作る今のスタイルになっていきました。それが今の自分にはしっくりきているなと思います。」

ー 魂が宿っているように感じます。

葉栗「木彫はどんどん量を減らしながら形を作る技法で、基本的にマイナスの仕事しかできないぶん彫るごとに気持ちを込めています。削ぎ落とした形に宿る強さを追求したいという気持ちが最近は強いですね。」

木彫と向き合う

ー そもそもの木彫との出会いについてお聞かせください。

葉栗「元々親類が木彫をやっていて子供の頃から身近な存在ではあったんですが、当時は一緒に作るというわけではなかったんです。でも立体物を作る大人が世の中に存在するということはその頃から知っていました。中学の時、粘土で手を作る授業があったんですが誰よりも上手に作れたように感じて、その時に自分はこの道なんだと思って大学も彫刻科に進学しました。
ただ木彫は作業が難しかったので、最初は自分の中で扱わない素材に決めていたんです(笑)ですが大学3年の頃、様々な木彫作品を見ていくうちに素材への憧れの気持ちに気づき、『木彫から逃げてたらダメだな』って思いました。私が彫刻でやりたいことって一つ一つ時間をかけて形を作り上げていくことだったので、それにはやはり木彫が合うと感じたんです。なのでもう一度しっかり木と向き合ってみようと決意しました。最初は試行錯誤しすぎて知恵熱が出たりとかもあったんですが、段々と作れるようになっていきました。」

ー そうだったんですね。葉栗さんにとって木彫の魅力はどんなところだと思いますか?

葉栗「木そのものが持つ素材の強さや温かみはもちろんですが、やはり作った形をそのまま見てもらえるところでしょうか。彫刻には色んな技法があって、例えば粘土で形を作ったら型取りしたり。その過程で自分の作った形が変わったり縮んだりする素材もあるんですが、木彫の場合は彫ったらそのものが作品になりますよね。自分が重ねた作業が作品に反映させやすいっていうのが自分の性格と合っているなと感じます。」

ー 色彩についても教えてください。アクリル絵の具で着彩しているんですよね。

葉栗「はい。ただ色を単体で使うことはなくて、色数を絞って少しずつレイヤーを重ねるようにして色付けしています。」

ー 色鉛筆のような風合いに見えますよね。そして水彩のような水々しさも感じます。

葉栗「子供の頃から色鉛筆でも色んな色を混ぜるのが好きだったので、その名残りかもしれませんね。大学修了後すぐの頃はジェッソで下地塗りして不透明な色を塗っていた時期もあったんですが、近年はせっかく木彫の作品だから木目や木の色を生かして染み込ませるようなイメージで着彩しています。」

ー より今回の世界観に合っていて素敵だなと感じます。

ー 最後に、海外でも活躍されている葉栗さんですが今後の展望や目標などあればお聞かせください。

葉栗「コロナ禍になる前にアジア圏などで展示させてもらう機会があって、そこで繋がりを持った方々と『コロナが落ち着いたらまた何か一緒にやりましょう』っていう話はずっとしていて、最近ようやくそれが動き出せるかなという段階に来ているので進めていきたいなと思っています。また国内でも愛知県だけじゃなくて他の県でもやっていきたいなと思っています。」

ー 活動の機会も徐々に増えてきましたし、色んなところで葉栗さんが活躍していかれるのを楽しみにしています!

葉栗里さんの個展「Sleep on the Seabed」は7月16日[日]まで開催しています。静寂の中に佇む木彫の力強さをぜひ感じにいらしてください。

インタビュー:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

葉栗 里 / Sato Haguri

2013年、愛知県立芸術大学大学院彫刻領域修了。
主に人間や生き物をメインに木彫作品の制作を続ける。
ただの木の塊が「ある」という認識から、何かの生命が「いる」という捉え方に代わる瞬間に、一番の喜びを感じながら制作を続けている。


葉栗 里 個展
Sleep on the Seabed
2023年6月24日[土] – 2023年7月16日[日]

JILL D’ART GALLERY

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