谷 穹 × 山田雅哉
作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第25回は現在企画展「Un) Naturalness」にご参加くださっている谷 穹さん、山田雅哉さんにお話を伺いました。両名とも過去にインタビューを受けて下さっていますが、今回も作品に対しての考えや技術の探究など興味深いお話しがお聞きできました。過去のインタビューもあわせて是非ご一読ください。
※メイン写真(左から):山田雅哉さん、谷 穹さん
ー 今回二人展に「Un) Naturalness」というタイトルを付けさせて頂きましたが、テーマを聞いた時の印象はありますか?また作品に反映されたことがあれば教えてください。
山田さん(以下敬称略)「タイトルを聞いた時、自分の墨流しの作り方を汲んでくださっているなと感じました。ピッタリなタイトルを付けて下さったなと。なのでタイトルに合わせて作ったというより今まで通り作品を作っていけば空間にうまく合っていくだろうなと思って取り組ませていただきました。」
谷さん(以下敬称略)「自分も全く同じですね。」
ー お互い素材や技法の違う作家さんとの展示となりますがどんなイメージをお持ちでしたか?
谷「“Un) Naturalness”というタイトルがずっと一貫して流れていたように感じます。山田さんの作品も事前に拝見しましたが日本画と思わなかったですし、二人展だからといって何かを意識するいうことも無くて、壁がないような不思議な感じでした。
今回に関してはタイトルを聞いた時からこうなるだろうなというような感じで、展示風景が見えていたわけでは無いですが、前から知っていたような。なにか変に高揚するということもなく自然体な気持ちで臨めました。」
山田「嬉しいです。僕も谷さんとご一緒すると聞いた時、変に合わせなくても自分の仕事をしていけば自然と良い空間になっていくだろうなと感じていましたので、不安感などは全くありませんでした。」
ー お互いに自然としっくり行くような感覚があったというのは、陶芸や日本画の歴史やお二人が制作する工程など、作るもの・表現は違えど共通点があってのことなのかなと感じます。
山田「僕もそう思っていて、今日谷さんとお話ししていて改めて確信に変わりました。」
谷「今、当たり前に日本画とか陶芸とかに当て嵌めていく傾向が強くて。その方が分かりやすいんだろうし現代のシステムを作る上では必要なのかも知れないと思うんですが、少し強引だなとも感じていて。そうやって当て嵌めない方が本当は自由に見たり考えたりできるのに、見える範囲を狭めてしまっている傾向があると思うんですよね。やきものもそういった部分があると思っていて。
時代と共に技術が変わっていって昔良かったものが劣化していっているのにそのことに気が付いていなかったり。それはあまり良いことでは無いと思うんですよね。そういったことが信楽にも起こっているように感じていたので、まずその技術を見つめ直して発見していくところから始めました。」
ー 技術を発見していくといったところでは、山田さんの墨流しの制作方法とも通じているところなのかなと思いますが。
山田「そうですね。谷さんが仰るように、上辺をコピーしてくだけでは一見すると良いように思えても、本質的な部分では全然技術が進歩していなかったりするから、そこを一歩突き抜けてもっと本質的なところで現代に通じていくようなことをやりたいなと思っているので、そういったところが共通するなと。
そのためにはやっぱりもっと研究していかないといけないし。自分もまだまだなんですが研究を重ねながら色んなことを作品制作で試していく。その繰り返しでまた新たに気付かされることがあると思います。」
ー 技術や手法を探究しているお二人だからこそ、この自然な空間が出来上がっているんだなと改めて感じました。
ー では今回新たに制作した作品についてお聞かせください。
山田「今回、二十四節気をタイトルに冠した連作を展示しています。元々、音楽を目で見えるかたちで表現するというテーマで作品制作していますが、今では音楽の何分何時間という時間軸から、季節や自分の人生を重ねて、もっと大きな視野でどんどん時間軸を広げて表現できるようになってきました。」
ー 二十四節気それぞれの名前がタイトルに付いていて、実際その季節に合わせて一年がかりで制作をしたと伺いました。
山田「そうですね。ただその季節自体をイメージして描いているというわけではなく、その季節に感じたことなど自分自身の反応や行動、空間を作品取り込んでいて、結果としてその時々の季節感が作品に表れているのかなと思っています。」
ー 谷さんはいかがでしょうか。新しく取り組んでいるものなどありますか?
谷「去年くらいから瓶子を作り始めてます。「作って良いよ」って何かにいわれているような気がして。研究していて気付いたんですが、室町期の焼成方法って用途とはあまり関係ないんですよね。だったら美意識を伝えるためのものなら用途は必要ないかなと思って、大壺に瓶子の口をつけてみたりしました。」
ー なるほど、確かにいわれたら口の部分が小さい。でも何も違和感なく存在していて自然と美しいフォルムになっていますね。
谷「何に使うということすらもどこか置き去りにできないかなって思ってます。
いわゆる“伝統的”といわれるものって確証バイアスとの戦いなんですよね。決めつけからどう脱却するか。そこだけに意識を向けているわけじゃないんですが、決めつけが起こらないように、そして人に意識が向かないように取り組んでいます。」
山田「谷さんの仰ってること、凄く分かります。
僕は哲学者に憧れているんですけど、そういう風に日々問いを立てて自分の美意識に向かって生きている感覚です。僕の場合は平面で、絵はどちらかというと少しファンタジーに近いから自由にやりやすい部分があって、自分にとってはそれが面白いと感じて取り組んでいるけど、谷さんの場合は立体で、物体としてそこにより存在しているから、僕がいうのもなんですが大変だろうなと。」
ー お二人のお話を伺っていると制作の深部にある哲学的な部分がお聞きできていつも本当に面白いです。今回のインタビューでも、この展示空間が調和しているのは考え方が共通しているがゆえに生み出されているものなんだなと改めて感じることができました。
企画展「Un) Naturalness」は9月10日[日]まで開催しています。
お二人の作品が持つ気配や静謐な空気感をぜひ感じにいらしてください。
インタビュー:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎
谷 穹 / Tani Q
1977年、滋賀県生まれ。成安造形大学立体造形クラス卒。
2007年に双胴式、2012年からは単室式穴窯をかまえ、また改善を重ねながら、信楽の作品を制作している。近年の展示参加に「第15回パラミタ陶芸大賞展」パラミタミュージアム(三重/2021)。
パブリックコレクションに、ポートランド美術館(アメリカ/2014)など。
山田雅哉 / Masaya Yamada
1981年愛知県生まれ。2015年愛知県立芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。博士(美術)。主な展覧会等に、「新進作家支援事業 山田雅哉『エチカ』」(文化フォーラム春日井、2023)、東海テレビ「ニュースOne」番組セット・メインビジュアル担当(2020-2022)など。
日本画研究とその実践に裏打ちされた技法、技術と共に、独自の哲学的視点により表現される「Angel」シリーズ、天然の土や鉱物である絵具の物質的生命力を発揮させる「ZEN」シリーズ、この2つを軸に制作している。