市川大翔×山田雅哉

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
記念すべき第30回は現在企画展「HARMONY – 用⇔美」にご参加くださっている市川大翔さん、山田雅哉さんにお話を伺いました。作品のコンセプトについてや、自身の作品と生活や社会との関わり、生活の中のアートについてなど興味深いお話を沢山聞くことができました。

※メイン写真(左から):市川大翔さん、山田雅哉さん

ー 今回ギャラリーにとっても初めての組み合わせで、とてもユニークな企画展になりました。「HARMONY – 用⇔美」という展示タイトルに合った素敵な展示になったなと思います。
山田雅哉さんには何度か展示していただいてますが、今回は作品を絞り「ZEN」というシリーズと掛け軸のシリーズを展示していただきました。まずこれらのシリーズについてお聞かせいただけますか?

山田さん(以下敬称略)「今回展示した2つのシリーズはまずフォーマットが異なるのでより差別化されています。技術的なことをいうと掛け軸の場合は保管の際などに巻くので、あまり絵の具を多くのせずフラットになるように表現しています。対してZENシリーズはパネルに和紙を貼っているのでより荒い表現ができるというか、色を沢山のせたり逆に洗って落としたりなどしています。
“制作プロセスを経て出てくる思いがけない表現を捉える”という意味では、根底にあるコンセプトはこれまでの作品と同じですが、より素材感や物質にフォーカスしているのがZENシリーズで、水や流動的なかたちを扱うのが掛け軸のシリーズという感じです。」

ー 現在は和室が少なくなってきて洋室主体のお家が多くなってきていますが、和洋どちらにも飾れるようなお軸になっていますね。

山田「そうですね。掛け軸というフォーマットも以前ジルダールさんから提案いただいて作り始めましたが、今回は布地の色を変えたりして、床の間はもちろん現代のお家にも合うように様々なチャレンジをさせていただきました。絵だけでなく布地を一枚挟むことでより空間と親和性が出るなと感じています。」

ー 市川さんは今回初めての展示ですが、ギャラリーとしてもネオン作家さんを取り扱うのが初めてなので、作品の作り方やコンセプトなどをお聞きしたいです。

市川さん(以下敬称略)「制作方法については、まずガラス管をバーナーで熱して曲げて形を作っていきます。それからガラス管の中を真空にし、そこにアルゴンガスやネオンガスという天然のガスを入れ、高い電圧をかけて光らせるというのがネオン管の原理です。よくLEDとの違いを聞かれることがあるのですが、ネオン管の中ではガスそれ自体が光っているので光り方に魅力があって、それが一番惹かれるところです。毎回作るたびに綺麗だなと思っています。」

ー ネオンを作り始めたきっかけは何かあるんでしょうか?

市川「写真を撮っていた時期があってその被写体に無意識にネオンを選んでいたというのがあります。元々ネオンには興味があったんですが、撮るうちに自分で作りたいと思うようになって、今の師匠にあたるネオンを40年近く作り続けている職人のところへ学びに行きました。今は自分で工房を持って制作しています。
コンセプトとしては、ネオン管のフォーマットって基本的には棒状の“線”で、その制約が心地良い時もありますが作品として限界を感じることもあるんですね。なので今は吹きガラスなどを使ってガラス管の外見を変えてみたりして、線のフォーマットを離れてどのようにプレゼンテーションするかというところを主題に置いています。ネオンは工芸といえるのかというと微妙な立ち位置ではありますが、科学技術と隣接しているので、ガスの種類を変えてみたり電圧を変えてどういう動きになるのかなど色々実験しているところです。絵画でいうところの絵の具だったり、陶芸でいうところの温度や土を変えたりという感じでしょうか。」

ー 今回は「HARMONY – 用⇔美」という展示タイトルですが、このタイトルを聞いた時に受けた印象や取り入れたことはありますか?

山田「元々“日本画”という言葉ができたのは明治期以降なんですが、多くの人が日本画をイメージする時に例えば水墨画とか、日本画と位置付けられる以前の作品をイメージすることが多いのかなと思っていて、僕自身もその時代の作品に作家性を感じてそこを目指した作品作りをしています。彼らはきっと当時の最先端の美術表現をしていたと思うんですが、それは単に美しいものを作るということだけを求めていたわけではなくて、生活から切り離されたものではなかったと思うんですね。だからこそ生活の中に襖絵や掛け軸があったのかなって。自分自身も美術を追い求めていますが、何か特別なものというよりは生活の中に出てきた表現でありたいなと思っています。
そういった意味ではZENシリーズは空のように見えますが、窓から見える風景や夕焼けが美しいと感じたりすることが表現されている気がして、そういった感情や現象が絵の中に自然と湧き起こったらいいなと思っています。
そういったことから今回の展示も、テーマから何かを目指して作らなくても、日々のものを持ってきたらきっと良い組み合わせになるんじゃないかなと感じていました。」

ー 「用⇔美」と間に行き交う矢印が付いているのも、それぞれ対極ではなくて行き来しているようなイメージなので、山田さんの仰ることと通じていますね。

ー 市川さんはいかがでしょうか。

市川「テーマもそうですが初めに展示のお話をいただいた時、本当に僕で大丈夫かな?と思いました。一緒に展示する方々を検索したら陶芸や日本画の作家さんでより一層不安になって(笑)
ネオンって制作工程も皆さんより単純で、ネオン管の曲げ方にしても2、3パターンくらいしかないある意味狭い領域なので、陶芸や絵のような自由な表現と同じ空間にいれるんだろうか、ハーモニーになるだろうかとも思いました。
でもいざギャラリーに置いてみたら、面白い化学反応が起きましたね。展示の仕方についてもその場の即興性というのは現場でしか味わえないので、そういった意味で自分としてはハーモニーを体験できたなと思っています。」

ー 確かに、私たちも今回どうなるのかなというドキドキがありました(笑)いざ置いてみたらネオンと日本画の相性が良くて面白い空間になりましたよね。

ー 「用⇔美」というテーマについてはいかがでしょうか。

市川「ものを使っていく中で、綺麗だなと思うことや幸福感を“自分対もの”として生活の中で完結しているのが凄く良いなと思っていて。というのも、今って多幸感や幸せってSNSの普及などもあって人に握られているというか、自分の価値基準が揺らぎがちだと思うんですね。そうした時に身の回りに自分の拘りがあるものが何か一点あるだけでも、自分の価値観ができて、そういった不安定な外部環境からのシェルターになるんじゃないかなという気がしています。
自分が作品を作っていく中で色んな人や環境と関わって、きっと作品を購入いただいた人はそういった関係性も一緒に購入して、そこにその人だけの幸福を感じるてもらえるのかなって。そうだとしたら今必要な価値基準なんじゃないかなと思います。」

ー 改めてアートを生活空間に取り入れるということは大切なことですね。

市川「ネオンが空間に与える影響は大きいですし、電気がついた時は毎回感動します。ネオンって新しく何かを始めるっていう時にオーダーされることが多いんですね。なのでその人の一番大切な瞬間に立ち会えることが多くて、ネオンを作って使ってもらう、それが自分にとっての“用”だなと思いますね。
ネオンサインっていうくらい元々機能的なものなのでその強みを活かしながら自分の美という価値観をどう表現するか、両方に立って制作を続けていきたいなと思いました。」

ー 私自身お店やお家の中で見るネオンというのを体験してみたいなと思うので、色んなところにご紹介していけたら良いなと思っています。

ー 最後に作品や展示に関して、今後やってみたいことなどはありますか?

山田「掛け軸もそうですがジルダールさんからお題をいただいて、それに対して自分にできることは最大限全力で応えたいと思う中で成長できてるなと感じていて、自分発信ではないですがそれが毎回挑戦だなと思っています。今回もネオンや異素材の作家さんとの展示という面白い機会をいただいて色々発見もできて、ジルダールギャラリーならではだなって。この期間中にまた新しい意欲が出てくるような気がしています。」

ー そういっていただけるととても嬉しいです。

市川「自分としては今までコンペやオーダーワークを多く受けていますが、そこから離れてやっていくことも大事だなと思うようになってきていて。今の課題としては本当に自分が描きたいと思うモチーフを探して、それを自身の作風として定着させて周知していくことが必要なんじゃないかなと思っています。場所や空間に合わせて作っていくと、自分の作品となった時にどうしてもテイストがバラバラになるという課題もあるので。
あとは、ネオンって本来社会性がある広告媒体として強力なパワーを持っていて、ある種消費主義的な象徴としてネオンが街に置かれたことに対して、現代アートの作家たちがメディウムとしてネオンを使うようになったという歴史があるので、自分の作品もこれまでやってきた技術的なアプローチをしつつも、作品としてどう社会に対して意義付けていくかというところに課題感を持って、それを解消していけるような展示や作品作りをしたいと思っています。
そういった意味で今回ものすごく勉強になりました。今までネオンで完結していたものが、他のメディウムと合わさったことで別のアプローチもあるんだなって視野が広がったような気がします。」

ー ありがとうございます。他の作家とのマッチングを意識した展示になっているので、お客様にも楽しんでいただけるのではないかなと思います。

企画展「HARMONY – 用⇔美」は11月17日[日]まで開催しています。
5名の作家が織りなすハーモニーをぜひ体感しにいらしてください。

インタビュー:田口あい / 写真:木村宗一郎 / 編集:榮菜未子

市川大翔 / Taisho Ichikawa

1991年生まれ。早稲田大学社会科学部 卒業。
「手工芸の技術」と「メディウムとしての光」を軸に、ガラスのネオンサインの特性を活かした作品の制作を行う。ネオン管のバーナーワークだけでなく、吹きガラスの技術を織り交ぜるなど、従来のネオンづくりを発展させる。光が持つ情緒性を、電気・真空・希ガスなど、ネオンに関する科学技術を応用し表現する。

山田 雅哉 / Masaya Yamada

1981年、愛知県生まれ。愛知県立芸術大学大学院 美術研究科 博士。
幼少期から自覚していた共感覚(=音や文字に色を感じる知覚現象)。その制作の軌跡をもとに博士論文「音楽の視覚化にみる日本画表現の可能性」を発表し、愛知県立芸術大学日本画領域としては初となる博士学位を取得。なおこの論文内では、伝統技法を応用した二つの新技法を発表している。


HARMONY – 用⇔美
高橋 亞希 / 魚津 悠 / 岡安 真美 / 市川 大翔 / 山田 雅哉
2024年10月26日[土] – 2024年11月17日[日]

JILL D’ART GALLERY

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