はっとりこうへい×榮菜未子×河嶋菜々

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第31回は現在企画展「scene 05 – A day in the forest / ある日、森の中」にご参加くださっているはっとりこうへいさん、榮菜未子さん、河嶋菜々さんにお話を伺いました。制作方法やモチーフについてなど様々伺って終始楽しいインタビューになりました。

※メイン写真(左から):河嶋菜々さん、榮菜未子さん、はっとりこうへいさん

ー 河嶋さんとはっとりさんは今回初めてジルダールで展示してくださっていますのでまずは簡単にプロフィールをお聞かせいただけますか?

河嶋さん(以下敬称略)「河嶋菜々です。京都を拠点に活動しています。学生時代からずっと庭を描いていて、庭を通して植物や記憶の繋がりを星座に例えて、日常の中にある身近なものをテーマに描いています。」

ー 星座に例えるというのはどういうことでしょう?

河嶋「ずっと昼間の明るい庭を描いていて、ある日夜の庭を描いてみようと思ったんです。夜の庭は真っ暗で何も見えないんですが、今まで散々描いてきたのでどの花がどこにあるかをちゃんと覚えていて、その記憶の繋がりが夜も相まって星座のように思えたんです。そこから、ものの繋がりを星座に例えて描くようになりました。
一見ちょうちょのようにみえる作品があるんですが実はこれは二連星という星で、この星は目視では別々の星なんですが同じ軸で周回していて時々重なる瞬間があるんです。それがちょうちょみたいに見えるなと思って描いてます。」

ー なるほど。ちょうちょのような星や、星のようなちょうちょもありますね。

河嶋「私の見方の癖なんですが、例えば木を見てるのに別のものが浮かんでくるというか、身近なものが浮かんでくるんです。昔の人って星を見てこぐま座とかくじら座って点と点を繋げて名前を付けてたと思うんですけど、それと一緒なんじゃないかなって。私の考え方ロマンチックだなって最近思います(笑)」

ー ロマンチックでとても素敵です。

ー では、はっとりさんお願いします。

はっとりさん(以下敬称略)「はっとりこうへいです。武蔵野美術大学の彫刻科を卒業してから彫刻作品を作っています。入学した当初は工芸工業デザイン科というところでやきものを専攻していましたが何かが違うなと感じていて。素材の違いかなと思って彫刻科に転科しました。その後授業で初めて木彫をやった時にすごく気持ちが良くて自分に合ってる気がして、それ以来木を使い続けてます。」

ー 作品がどういったプロセスで作られているのか、素材についてのこだわりなどありましたらお聞かせください。

河嶋「作り方でいうとパネルに高知麻紙という和紙を貼り、岩絵具や水干絵具で描いています。最近は枠について考えることが多くて、自分の絵の雰囲気とパネルの真四角が合わないんじゃ無いかなと思い始めて、スタイロフォームという断熱材にも使用されているものをフリーハンドで四角に切って布を貼って描くようになりました。そうすることで絵の柔らかさと支持体の硬さとのバランスがとれたなって個人的には感じています。日本画ってきちんと順序が決まっている方が多いんですが、私の場合は感覚的に決めていて下地を塗らずにそのまま描いたりもしています。」

ー 初めて作品を拝見した時に比べると色味も変わってきているようですね。

河嶋「そうですね。以前は水色や黄色やピンクなど淡い色を使っていたんですが少し優しすぎるなと感じて、夜をテーマに描きはじめたタイミングで黒や黒群青など濃い色を取り入れるようになりました。日本画材って色の美しさだけではなくて、黒でもザラっとした素材感のある黒からマットな黒があってそれでそれが魅力だと思ってます。なので私の作品はわりと番手の荒い素材感があるものが多いです。」

はっとり「自分は絵の具を100回塗って彫るという技法を使っています。虹色にも入らないような“見たことのない色”を作りたいなと思ったのが始めたきっかけです。科学的にいうと虹色以外の色って人の目で捉えられないと思うんですが、そういうなんだか分からない色を自分で生み出したいなと思って。塗り重ねていって彫ると何色が出てくるか分からない。その分からなさが見たことのない色になるんじゃないかなってこの表現に辿り着きました。
絵の具で何度も塗り固めていくとエッジがなくなって形が緩やかになっていくんですね。それを最後にもう一度彫ることによって自分の中にある形を色彩と一緒に表現していて、色彩彫刻(color sculpture)と勝手に呼んでいます。」

ー 素材としてはどのような木を使われているんでしょうか?

はっとり「作り方が3パターンあって、まず一本の木から削り出していくパターン、家具屋さんから端材を貰ってきてその形を組み立てて何かに見立てていくパターン、そして置物などの既製品に色彩彫刻を施すパターンです。初めは全面に絵の具を塗っていたんですが、木肌の表情も面白いなと感じるようになって、それもひとつの色として敢えて残している部分もあります。」

ー 全部塗っていると素材が木じゃないように思う方もいるかもしれませんが、こうやって木肌が見えているとより木彫だと分かりやすくて、無骨でかっこいいなと思います。

ー 榮さんは何度か展示参加してくださっていますが、改めてモチーフについてなどお聞かせください。

榮さん(以下敬称略)「元々人物と動植物を組み合わせることをモチーフにしていたんですが、ここ数年は主に人物の胸像を中心に描いていました。私もさっき河嶋さんが言っていたように、記憶や人の繋がりを花や何かの形に見立てて描いているんですが、去年の年末くらいからまた人物だけじゃなくてその人の周りにあるものなどを取り入れたストーリー性のあるものをもう少し描きたいなと思って新しく始めています。一つ一つ物語のシーンのように増やしていってゆくゆくは読み物にも出来たらなって思ってます。」

ー 背景なども変わってきていますね。

「そうですね、背景も色々試しています。スポンジを使ったり指で直接描いたり、スクラッチ技法といってカラフルに塗った上から単色を塗り乾く前に削って色を出したりもしています。はっとりさんのように100回は塗ってないですが(笑)背景を変えるだけでもだいぶ表情が変わるなって思ってます。アクリルでも違う種類のものを使って厚塗りできるようになったのもあって表現の仕方は変わってきてますね。」

ー 今回の展示テーマに合わせて制作したり何か感じたことはありますか?

河嶋「先ほどの話とも繋がるんですが、森の中を歩いていてもそこに咲いているチューリップから思い出を巡らせたり、日常や身近なものを思い起こして作品制作したり選んだりました。」

ー 今回のチューリップと蝶々の組み合わせが素敵だなと思いました。

河嶋「植物も自分の中の黄金比みたいなものがあって、最近はチューリップとユリが好きで、さくらんぼも興味を持ち始めてます。丸と線のバランスがいいんですよね。元々私華道をやっていたんですが、華道では丸と線とマッス(塊)という3つの要素を組み合わせるという考え方で、それが結構作品に活かされてるなと思ってます。」

ー はっとりさんはいかがでしょうか。

はっとり「タイトルを聞いて、自分のアトリエの周りに森があって窓からは山の稜線も見えるのでそれらを思い浮かべながら制作しました。自分の場合、山に入っても景色を見るというより道に転がってる小さい木の実とか面白い形の枝とかを探すのが好きで、そういったところからどんどんイメージを膨らませて、自分の作品みたいなのが妖精のような感じで山にいても面白いかなとか想像しながら作っていきました。」

ー だから表情があったり覗き込んでたりしているのがいるんですね。

はっとり「元々木彫を始めた頃は人物を作りたくなくてバイクとか自転車とか無機質なものを作ってたんです。数年経って何か作品を変えたいなって思っていたある時、家具屋さんからもらってきた端材にドリルで二つ穴が空いていて。それを見ていたら段々顔に見えてきたんですよね。それから人を作ってみようかなって思い始めました。今はフラットに塗ってから彫って目や表情を作ることが多いです。」

ー 最初からある程度完成図を描いて作ってるんですか?

はっとり「いや、最後の方ですね。ぼんやり見えてくるのが塗り終わる最後の数回くらいで、それでも見えてこないのもあるんですけど。最後に削った時の色の出方と表面の色のバランスが合ってれば良いんですけど、違ってるなと思ったらまた上から塗ってみたりして。そうすると彫った部分にまた色が入るんですが、最後に磨く時凹んだ部分は磨けないのでそのままマットな質感が残るんです。それもまた味になって表情が変わっていくので面白いんですよ。」

「どの段階で目とか表情が決まっていくのか気になっていたので聞けて良かったです。アクリル画は上から重ねられるけど彫刻って削ったら最後だと思ってたんで、彫り直しても味として残せるって面白いですね。」

ー 日本画の場合はどうですか?

河嶋「日本画の場合は膠の成分がお湯とか水に溶けるので洗うっていう作業をしますね。完全に洗い落とせなくても日本画はそれも味として残しやすいと思います。」

ー やり直した部分があってもそれも味として残していけるのは面白いですね。

ー 榮さんはテーマについてはいかがですか?

「私はちょうど森をテーマに作品群を作っていこうと思っているところだったのでこのテーマがぴったりで、すんなり作品のイメージを膨らませながら制作できました。お二人との展示がきまってから作品をネットで拝見して、はっとりさんの削っている技法とか河嶋さんの淡い色合いとか、少しずつ通じるものがあるなって皆さんの作品も思い浮かべながら描くことでいつもと違う表現ができたなって思います。」

ー 三者三様でそれぞれ表現方法は違いますが、モチーフが少しずつ重なっていたり共通する部分もあって、自然とマッチした良い展示空間になってますね。お客様の反応も楽しみです。ありがとうございました。

企画展「scene 05 – A day in the forest / ある日、森の中」は2月9日[日]まで開催しています。
2025年最初の展示にふさわしい明るくて楽しい空間となりました。賑やかな森の中を体感しにいらしてください。

インタビュー:田口あい / 写真:木村宗一郎

はっとりこうへい / Kouhei Hattori

1978年東京生まれ。武蔵野美術大学大学院美術専攻彫刻コース修了。
色を塗り重ね、積み上げ、その色層を彫刻する。
color sculpture(色彩彫刻)というオリジナルの技法で作品を制作。2022年より東京の青梅市にアトリエを構え活動しています。

榮 菜未子 / Namiko Sakae

1984年、愛知県生まれ。
スペイン留学中に言葉が分からなくてもアートで心を通わせることができると実感した経験から、見た人がほっこり優しくなれるような絵を描いている。目に見えない繋がりや自分を構成する記憶や環境、自然などに想いを馳せながら、人物や動植物、また色彩や図形などにそのイメージを落とし込んでいる。
アート活動のほか壁画やキャラクター制作など、イラストレーター・デザイナーとしても活動中。

河嶋 菜々 / Nana Kawashima

1997年おとめ座生まれ。
2022年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(日本画)修了。現在京都を中心に活動中。
昔の人が星のつながりを身近なものや神さまに例えたように、日々の中でさまざまなイメージを感じることがあります。生き物のようなチューリップ、ちょうちょのような二連星、宇宙のような庭など。そんな私の日々を切り取りたいと思い描いてみました。目の前にあるのになんだか別のものに感じるような、、そんなふうに楽しんで絵を見ていただけると幸いです。


scene 05 – A day in the forest / ある日、森の中
はっとりこうへい / 榮 菜未子 / 河嶋菜々
2025年1月25日[土] – 2025年2月9日[日]

JILL D’ART GALLERY

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