ソエノカオル

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第16回は現在個展「tenpen [転変]」を開催中のソエノカオルさんにインタビューさせていただきました。モノクロ作品を制作し始めたきっかけや、表現技法について様々お話を伺うことができましたので、ぜひご一読ください。

ー 今回の展示のタイトル「tenpen」について、インパクトのあるタイトルだと感じたんですが、込められた想いやコンセプトをお聞かせください。

ソエノさん(以下敬称略):転変という言葉は“変化する、移り変わる”という意味があります。モノクロメインで制作し始めてからだいぶ経つんですが、私の中でモノの見方や表現方法が少しずつ変化していて、モチーフとして選んでいる人や建物も移り変わっていくものなので、今回の展示にピッタリだと思いタイトルにしました。

モノクロの群衆を描く

ー モノクロの群衆を2008年頃から描き始められているそうですが、そもそものきっかけはあったんでしょうか?

ソエノ:当時学生で作品スタイルに悩んでいた時期だったんですが、「自分の中で特に興味のあるものに焦点を当てて描いてみたら?」とアドバイスをいただいたことがあったんです。
それを受けて私が面白いと感じる部分はどこだろうと突き詰めていったとき、人の動きや流れ、人がたくさん集まっているところに興味があるなと気付いて。
当時は色彩についてはそこまで興味を持っていなくて、人のシルエットに強い魅力を感じていたので、だったら色もなくても良いかなと思って自然とモノクロになりました。

ー 色彩や背景などの情報をなくすことで、より群衆というシルエットを際立たせていったわけですね!背景に使っている白色も印象的ですが何かこだわりはありますか?

ソエノ:モノクロ表現を始めた当時は、テンペラで白亜地という炭酸カルシウムを使って作る下地があるんですが、少し粉っぽく灰色がかっていて、それが気に入っていてずっと使っていました。
当時は支持体にパネルを使っていたので白亜地を塗ってかなりフラットな仕上がりにしていたんですが、制作を続けていく中でこだわりのポイントが少しずつ変化して段々使わなくなっていきました。
今は下地に凹凸をつけたりしていて、手作業しているという跡を残すようになっています。興味の対象が変わることによってマチエールや質感、作品としての仕上がりも変わってきました。

ー なるほど。マチエールの変化とともに、近年ではカラーの作品も増えていますが、何か心境の変化があったんでしょうか?

ソエノ:ずっとモノクロのスタイルで続けていった先にようやく色への興味を持つようになり、ワンポイントに色を入れたらどうなるかなと少しずつ試し始めました。その流れでエアブラシを使うようになったんですが、表現技法が変わったことによって大きい面に色を取り入れられるようになっていきました。

変化を楽しむ

ー ソエノさんの作品の中で空をモチーフにした作品もありますが、先ほど伺ったエアブラシを使用するようになったり色彩への興味が湧いたことで生まれてきたシリーズなんでしょうか?群衆の作品とはまた少し違う印象ですが。

ソエノ:人をモチーフに描き始めたのは2008年からですが、元々「空の色が綺麗だな」って感じる気持ちというのはそのもっと前から持っていて。ただ私の中でピッタリくる表現技法が見つかっていなくて描けないでいたんですが、エアブラシを使うようになってこういう表現が出せるなら空も描けるかもと思って描き始めました。

ー ようやく表現の仕方がしっくりくるものが見つかったということですね。

ソエノ:そうですね、まだまだ満足できていない部分はあるんですが、使う道具が変わることによって出来る表現も変化していると感じています。

ー よりパワーアップしている感じがします!

ソエノ:多分私の中でその時々でしっくりくるものが次々見つかって行くっていう感覚が近いですね。こうしなきゃいけないと固定するのではなく、こうやったら楽しいかなという気持ちで制作しています。
ずっと同じスタイルでやっていてマンネリした気持ちが出てきたのかもしれないですが、変化を取り入れることでまた新しい気持ちで制作に向き合えているのかなと思います。

ー 今回展示している作品の中でも一際目を引くのが「’15 夏の陣」という全長4.3mmの大作ですが、こちらについて伺えますか。

ソエノ:こちらは2015年にNagiso Artist In Residence(南木曽アーティスト・イン・レジデンス)にて公開制作した作品です。
イメージのベースになっているのが大坂夏の陣という大和絵の屏風をヒントにしていて、建物とか人の全体をあえて描かない構図にしています。
これを描いた当時、国会議事堂にデモがあったり政治に対しての運動が高まっていた時期で、そういった国内の雰囲気と歴史の勢力的なイメージを少し重ね合わせて制作したものです。
普段はメッセージ性をあまり込めすぎないようにしていますが、こちらは私の中では少し意味合いが強い作品ですね。

ー メッセージを込めすぎないというのは全体の作品に通じるところがありますか?例えば「untitled」というタイトルの作品もありますよね。

ソエノ:そうですね、わりと記号的に作品タイトルを付けることが多いです。
私の制作スタイルは元々あった要素を引き算したり付け加えたりして構成しているので、私自身はどんな光景をベースにしているか分かっていても、作品を見た方は持っている情報量が違うので作品の受け取り方が違ってくる。
見る方がどう捉えるか、そのギャップに面白みを感じています。

例えばある風景を作品にした時、その風景を知っている方は「ここはあそこですね?」と的確に返ってくるんですが、その風景を見たことがない方だと全く違う場所をイメージしていたりして。

ー 確かにそれは面白いですね。見た人が想像させる余地を与えることで、その人それぞれの記憶の中にある光景と重ねるのかもしれませんね。

ソエノ:そうですね、凄く分かりやすいシンボリックなものの場合はまた別ですが、ローカルなものを作品にした場合は色々な反応があって、そういった意味では私も驚きや発見があって楽しませていただいてます。

「’15 夏の陣」の前で。レジデンスを思い出しながらお話しされるソエノさん。

ー では最後に、今後描いてみたいモチーフなどはありますか?

ソエノ:今興味があるのが住んでいる家の近くに工場とか変わった建物があったりするので、その周りの電信柱とか無機物なものにフォーカスをあてた作品を作ってみたいなとなんとなく考えてます。気になるポイントがいくつかあるので、撮影しに行こうと思ってます。

ー 閃きが生まれてまた新しい作品が出てくるのを楽しみに待っています!

ソエノカオル 個展「tenpen [転変]」は6月26日[日]まで開催しています。
モノクロが織りなす凛とした世界観をぜひご覧ください。

記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

ソエノ カオル / Kaoru Soeno

2008年よりモノクロームで群衆を描く現在のスタイルで作品制作を続けている。
人の集まる様やその場所・その空間に強く興味を惹かれ、主に都市部の雑踏を作品のモチーフとしている。
旅先や人混みで、そこに自分が居ることをリアルに感じきれない、身体と意識がズレるような不思議な感覚におちいることがある。
このような、主体であるわたしが溶けて客体になっていくような感覚を、作品に反映したい。

アーティストページはこちら


ソエノカオル 個展
tenpen [転変]
2022年6月11日[土] – 2022年6月26日[日]

JILL D’ART GALLERY

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