天野入華
作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第17回は現在個展「Attitude」を開催中の天野入華さんにインタビューさせていただきました。天野さんと弊廊はもうずいぶん長いお付き合いですが、個展&インタビューは今回が初めてとなります。ぜひご一読ください。
ー 今回のタイトル「Attitude」についての思いや作品コンセプトについて改めてお聞かせください。
天野さん(以下敬称略):タイトルを何にしようかと色々考えたんですが、私が制作することは日常の中にアイデアがあって生活の一部というところがあるので、最初は“生活、日々”というような言葉が浮かんだんですが、ちょっとタイトルとしてはしっくり来なくて。
私が作品に向き合って制作している時の“姿勢や動き”、“立ち位置”を表したくて「Attitude」という言葉を最終的に選びました。
ー プロフィールにも“佇まい”や“存在感”をテーマに制作していると書かれていますので、タイトルもそこに通じていますね。
天野:そうですね。作品そのものというより、作品がどのような佇まいで場所や空間に関わっているかということがいつも意識の中にあります。
空間と制作プロセスを大切にするというところで元々ずっとインスタレーションをやっていたんですが、今回の展示も制作する姿勢という根本的なところは一緒かなと思います。
ー 置いたときにその空間がどう変化するか、どんな風に作品が存在するかということを大切にしているんですね。
天野:はい。めちゃくちゃ主張するわけではないけれど消えてしまうほどか弱い存在でもない、自分の中でそんな心地よいほど良い存在感というものに興味があって、例えば道端のコンクリートの割れ目から出ている“芽”って一見小さくて弱いように見えて逞しさも持ち合わせていて、そういった存在感が好きなんです。
それを表現したいと思いながら制作しています。
心地よいモチーフに惹かれて
ー 天野さんといえば双葉がトレードマークですが、そもそも作り始めたきっかけはなんでしょうか?
天野:双葉というモチーフ自体は小さい頃から好きで教科書の隅に落書きしてたりしてたんですが、この形になったのは大学の卒業制作で何を作ろうかと悩んでいた時です。
大学入る前からステンドグラスの工房に通っていてガラスにハンダ付けする方法などを学んでいたんですが、そこでランプを制作した時に隅にちょこっと何気なく双葉の装飾を付けてみたら、『私が作りたいのはランプ自体よりこっちの方かも知れない』って気付いて。自分のイメージを体現してくれるモチーフとして一番しっくりきてるなと思ったんです。
それがきっかけで卒業制作で双葉を作り始め、以来ずっと作り続けています。
ー 空間を演出するインスタレーションから、今のような作品へ変化していったきっかけはありますか?
天野:卒業直後はインスタレーションをずっとやっていたんですが、その場所・空間でしか作品が成立しなくて、お家に持って帰っていただくという作品ではなかったんです。
なので初めてジルダールギャラリーさんで展示のお声がけをいただいた時にどういう風に展示したらいいか迷ってご相談して、その時ちょうど額装された作品がギャラリーに展示されているのを見て、自分の作品も額に入れてみたらどうだろうと思い作り始めました。
作ってみたら、それまでは場所・空間に私が向き合うことでしか表現できないと思っていたものが、フレームの中を向き合う「空間」として捉えることで自分が思う表現ができると発見があって、そこから壁掛けタイプなど今のような作品を作れるようになりました。
今回展示している本型の作品も、形としてはだいぶ昔に作っていたんですが当時はもっと展示空間に合わせたもので私自身が調整しないと双葉が自立しなかったりと課題があったので、作品として持ち帰ってお部屋に飾っていただくことを意識し改良を重ねて今に至っています。
ー なるほど。展示空間や方法が変わることで作品にも変化が生まれているんですね。素材についてはどうでしょう?最近色ガラスや、色々な素材を使用されていますが、何かこだわりはありますか?
天野:意識化されていないこだわりといったら変な言い方ですが、単純に自分が気になっている色や素材・質感などを探していきながら隣に並べてみたりして、気に入るもの、しっくりくるものを感覚的に組み合わせています。
ー ライブ感がありますね!
天野:そうですね!コラージュのようにひたすら並べて「あ、この色好きだな。この素材好きだな。」といった感覚の連続で制作しています。
ネガティブの向こう側にあるもの
ー では新作「Crack」というシリーズについて、ここには双葉が入っていなくてまた新たな天野さんを見た気がしますが、こちらについて教えてください。
天野:これは一番新しいシリーズで、これまでずっと双葉をモチーフに制作していますが、双葉を作らなくてもその存在を表現できるんじゃないかなと自分なりに挑戦した作品です。なのでここにはあえて双葉を入れていないんです。
ー より抽象的な表現になった感じですね。
天野:「Crack=ひび割れ」って意図せずに割れて生まれる線ですが、それを意識的に描くのって難しいなっていうところも魅力的だし、冬の終わりに氷が張ったところからひびが入って植物の芽が出てくるようなところもイメージとしてはあって。
ー なるほど、「そこに居ないけど存在を感じさせている」わけですね。
天野:「ひび」と聞くと一見ネガティブな響きなんですけど、ひびの先に春の訪れがあるように、ネガティブの向こうにポジティブな次の新しい何かが始まるようなそんなイメージです。
ー 道端のコンクリートから生えてきてる植物という先程の話に通じていますね。
天野:最初はもっとバシバシの割れ目を作ろうと思ってドローイングもしたんですが、素材を触りながら線を探して行ったらもっと滑らかになっていって、最終的には当初のイメージからは少し変わっていきました。
これは全作品に共通してるんですが、自分が惹かれる質感や素材や色合いって水っぽいものに興味が惹かれていて、このひび割れも最終的に少し水面っぽい感じになってますね。
ー 天野さんのInstagramのストーリーズを見ていると、よく公園の水面や木の揺らめきが上がってるなぁと思うんですが、そういったところからイメージを得てるんですかね?
天野:あ、最近公園ばっかり行ってます(笑)そうですね、そういったところからアイデアのヒントを見つけることが多いです。記録的にストーリーズにあげたり撮影しています。
ー そういった意味で「Memories」という作品もあるように、天野さんが体験したことや記憶が作品に体現されているんだなと感じます。
天野:まさにそうですね。日々の生活の中で、楽しかったなとか綺麗だなって、大きな感動というよりは日々の“小さな感動”の積み重ねを大切にして、それを可視化している感覚ですね。
自分が忘れっぽいというのもあるんですが(笑)この感動を覚えておきたいという想いの延長線上に作品制作があるような気がしています。
ー では最後に、今後やってみたいことや展示してみたい空間はありますか?
天野:最近またインスタレーションをやりたいなーと思っていて、アートプロジェクトとか古民家に双葉を生やすというのをガッツリやってみたいです。
全然まだ届きませんが憧れとしては瀬戸内国際芸術祭とか、越後妻有(大地の芸術祭)のような、美術館というよりその場所ならではの環境の中に作品があって相乗効果で魅力的な空間になるような、いつかやってみたいなと思っています。
ー きっと素敵な空間になりますね!楽しみにしています。
天野入華 個展「Attitude」は8月7日[日]まで開催しています。
優しくも力強い天野さんの作品たちをぜひご覧ください。
記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎
天野 入華 / Irika Amano
2010年より、主に金属とガラスを使い立体作品とインスタレーション作品を制作。近年はグラファイト(鉛筆)のドローイングなども発表する。
また、金属性の植物モチーフの作品を空間に合わせて編み上げる作品「sprout」シリーズでは公開制作やパフォーマンスも行い、幅広い表現方法を試みながら制作を続けている。
日常の中に現れる一瞬の美しい色や情景を意識し、全ての物や事における“佇まい”や“存在感”をテーマに制作している。