山内喬博

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第18回は現在個展「二極運動」を開催中の山内喬博さんにインタビューさせていただきました。
昨年、記念すべきインタビュー第1回を飾ってくださった山内さんですが、この一年半で作風が大きく変化しています。その想いに迫りました。
ぜひご一読ください。

※ 第1回のインタビューはこちら

ー 昨年のTHE TOWER HOTEL NAGOYAでの個展は「反射とわたし」というタイトルで反射に重きを置いていたと思うんですが、今回はまた随分と作品が変わっていて驚きました。何か心境に変化があったんでしょうか?

山内さん(以下敬称略):だいぶ変わりましたね。
反射をコンセプトにしても、抽象すぎて見てる方に伝わりにくいなぁと思っていたのもあって、今回の作品は抽象なんだけど具象っぽいようなバランスで描いています。

ー なるほど、コンセプトからして前回とはだいぶ違うんですね。確かに今回展示されているものは、作品からタイトルが連想しやすいようなものが多い気がします。

山内:そうですね、「抽象×抽象」ではなく「抽象×具象」というような組み合わせにして、見る方により分かりやすいように描いた。というか、結果として分かりやすくなったという感じなんですが。
油絵具で勢いをつけている部分と、コラージュして止めている部分で「静と動」を表していて、相反する二つの動作ということで「二極運動」という今回のタイトルもここからきています。

静と動をつなぐ

ー メインになっている作品について教えてください。DMにも使われていますが、120号の大作ですね。

山内:これは「早朝運動」というタイトルですが、早朝飼っているインコに餌をあげる時にこっちに向かって飛んでくる様子を描きました。
コラージュしている部分が鳥の顔で、油絵具でマチエールを出している部分が動きのある羽で、二羽の鳥がバタバタと羽ばたいてこちらに向かってくる様子を表しています。
背景の紫は夜明けの段々明るくなっていく空、黄色いグラデーションのドットは光を表現しています。中央にいるインコは王子様気質な性格なので、頭に冠を乗せてみました。

ー 可愛い!なんだか物語にできそうですね。

ー 今回の作品たちはコラージュが画面の外にはみ出しているのも衝撃で、インパクトあって私はすごく好きなんですが、なぜこうなったんでしょう。

山内:油絵具の皮でコラージュしているんですが、切るかどうか迷っていて。今までは切ってたんですが今回は切らずに残しました。作品に勢いを出したいっていうのもあってはみ出しています。

先ほどコラージュの「静の部分」とマチエールの「動の部分」を描いてるといいましたが、その動きを一致させるために「調子」を付けているんです。
「調子」というのは「デッサンなどで形を取るときに光と影のグラデーションを付けて立体的に見せる」ことをいうんですが、今回の作品には全てそれを取り入れています。
実は僕、自分で“調子病”だと思ってるんですよね(笑)

ー それはなんですか?詳しく聞きたいです(笑)

山内:これまでたくさんの石膏デッサンを描いてきて。描き過ぎているせいですぐに絵の中に色の段階を付けたがってしまうんですよね。
今まではそれが嫌だったんですよ。自分はアートをやっていくんだって思っていましたから、反するように抽象的に描いていたんです。
ただそれでは自分が思うような作品が描けてないなとも感じていて、もう調子を付けようと受け入れた時に、「抽象×具象」の表現に変わっていったんです。
グラデーションの段階によってものを動いているように見せようと思うと、どうしても具象的なもののほうがイメージしやすいんですよね。

ただ「調子」って僕の中ですごく厳格で、秩序あるものなんです。調子を付ければ付けるほど勢いは落ちるし、アートから遠ざかっていく気がしていて。
なので構図だけでもアートにしたいと思って、そういった意味でもコラージュ部分をはみ出たさせたりしてます。

ー なるほど。勢いを大切にしているということは前回のインタビューでもおっしゃっていましたね。一見すると自由に描いているように見えて、色んなことが意図的に整えられ考えられて描かれているわけですね。

山内:そうですね。調子を付けつつどう勢いを出していくのかというところを考えています。全体を整え過ぎると勢いは落ちていくので、見せたい部分だけに調子を使って立体的に見せ、あとは抽象的に描くというような挑戦をしています。

ー こういった抽象と具象を掛け合わせるというのはありそうでなかなか無いような気がします。独特な世界観がより強くなってそれが山内さんの特徴になっているように感じられます。

山内:そういってもらえると嬉しいですね。

絵具の化石

ー 今回は新たに立体作品も展示されていますが、こちらについてもお聞かせください。制作し始めたきっかけはあったんでしょうか?

山内:削って描いて削って描いてを繰り返して、積りに積もったものを捨てようと思って持ち上げた時に、油絵具同士がくっついて塊になって出てきたんですね。それがなんだか化石を発掘したように思えて「これは絵具の化石だ」って。これを整えて作品にしたら面白いかなと思って作り始めました。

ー それでタイトルに「化石」が付いてるんですね!納得しました。
立体を作ったことによって平面の作品にも影響していますか?

山内:ありますね。コラージュのタワーをくっつけて、そこから削っていったり。油絵具のコラージュを止めるためにスタッズを使ったり。

ー 確かに厚みが以前より増したような気がします。立体を作ることによって、さらに平面のコラージュもより自由に大胆になったということですね。

山内:立体作品は本当にあまり難しく考えずに自由に楽しく作ってます。見た目の印象で名前も付けてますし。

ー 現在アトリエも増築中と伺いました。

山内:そうなんです。僕の作品って、自分の過去作を切り刻んでくっつけているんですが段々ストックが無くなってきていて。コラージュするための作品をたくさん作らないといけないんですが、中には乾くまでに3年とかかかる作品もあるので結構スペースがいるんですよね。

ー そんなにかかるんですね!
山内さんのコンセプトにもあるように地層のように作品が積み重なっていて、そこから時間の経過や山内さんの歴史を感じることができて素敵です。

どんどん変化していく山内さんの作品。
これからも面白いものを見せていただけるのを楽しみにしています。

山内 喬博 個展「二極運動」は9月18日[日]まで開催しています。
唯一無二の山内さんの作品とその質感を、ぜひ実際にご覧ください。

記事:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎

山内 喬博 / Yamauchi Takahiro

油絵具という一つの素材で様々なテクスチャや質感の違いを作り、組み合わせる。そのことにより記号的な形にも拘らず絵画に物語性を与えることができると信じている。
鑑賞者には絵画の中に入り込んで味わうこと、絵画を飾ることによって空間(部屋)に変化が生じること、どちらの感覚も味わってもらいたい。

アーティストページはこちら


山内喬博 個展
二極運動
2022年8月27日[土] – 2022年9月18日[日]

JILL D’ART GALLERY

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