酒井由芽子 × 谷川美音

作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第19回は現在企画展 「虹のリズム」にご参加くださっている、酒井由芽子さんと谷川美音さんにインタビューさせていただきました。
異なる素材と向き合うお二人の、作品に対する想いや共通点についても伺うことができましたので、ぜひご一読ください。

※メイン写真左から谷川さん、酒井さん

ー 今回二人展のタイトルを「虹のリズム」と付けさせて頂きましたが、イメージや印象についてお聞かせください。

酒井さん(以下敬称略):最初に二人展のお話を頂いたときに、谷川さんにお会いしたことが無かったので作品をインターネットで調べたらすごく素敵な作品だったので、虹のリズムという陽なイメージと重なって、ワクワクと嬉しい気持ちになりました。

谷川さん(以下敬称略):私も酒井さんとご一緒させていただくということで酒井さんの作品をネットで調べて、植物や自然物をモチーフにされてるのかな、という印象を受けました。それは自分の作品も同じだったので、すごく親和性を感じました。
漆と金属の共通する部分と違う部分がうまく響き合えばいいなと思っていまして、それが集約された良いタイトルだなと思いました。

ー 現在の素材で作品を作りはじめたきっかけは何でしょうか?また扱ううえでのこだわりがあれば教えてください。

谷川:私の作品は、形をFRP樹脂で作り、そこに漆の塗装しているのですが、大学を出てからFRPを扱う会社に勤めていた経験があり、その経験から形を作るのにFRPを使うようになりました。

ー それ以前は違う素材を使って表現していたのですか?

谷川:以前はもっと固まり的な表現をしてたんですが、発泡スチロールで原型を作り、その周りに麻布を貼ってそこに漆を染み込ませて固める「乾漆技法」という方法で作っていました。
FRPもガラス繊維でできた布に樹脂を染み込ませて固めるという技法なので、素材は違いますが、基本的な考え方が一緒なので導入しやすかったですね。

ー FRPを使い始めて表現に変化はありましたか?

谷川:発泡スチロールを使ってた時代は細い線などの細かい造形が難しくて、どちらかというと重厚感がある形になりがちだったんですが、漆の存在自体は液体なので、もう少し軽やかな表現ができたらいいなという願望をずっと持っていて。
FRPを使うことで表現したい形とうまく合わさって軽やかな作品を作れるようになりました。

ー 基盤となる素材がポイントということですね。酒井さんはいかがでしょうか。

酒井:私は美術科のある高校に進学して絵画・彫刻に触れましたが、自分には立体が合っていたので彫刻を専攻して、そこから素材を扱っていく中で鉄を最初にやったときに「これだな!」と。
もう直感ですね!そこから気づけばずっと金属と向き合っていますね。

ー 金属の良さはどんなところだと感じますか?

酒井:力を加えれば曲がり叩けば延びる、熱で溶けて磨けば光る、そして錆びるといったように素材自体が変化するところでしょうか。金属の種類によって特性がそれぞれ違うので、扱っていて発見が尽きないのも魅力の一つです。

ー ちなみに作品をイメージするのか、作品をイメージしてから合う素材を選ぶのか、どちらから発想されるんでしょうか?

酒井:作品をイメージしている時、同時にその印象に合う素材を思い浮かべている事が多いと思います。素材にあまり着色はしたくないので、なるべくその素材を活かして幅広く表現したいです。

ー では次に作品のモチーフについてお聞かせください。発想はどこから得ているのでしょうか。

谷川:私の作品モチーフは自然や自然現象、風景なんですが、実際そういう対象物を自分が目の前にした瞬間や、風景の中に身を置いた時に自分が受ける印象を大事にしています。
それを一旦自分の中で持ち帰って、自宅でその日あったことを日記を付ける感覚でドローイングします。それをたくさん描き溜めておいて作品の基にしています。二次元のドローイングを立体化するといいますか。

ー 風景などを見て良いな、という感覚が心に残っていて、それを形にする感じですかね。

谷川:そうですね。なので例えば写真に撮ったりその場でスケッチしたりとかせず、思い出しながら描くんですけど。自分の記憶がちょっと曖昧になって、単純にそのものの形だけではなくて、今まで自分が見てきたものや経験なんかが少しずつ混ざりながら、自分の線として出てくる。
具象と抽象の間みたいな感じで作品のフォルムが出来上がったら良いなと思っています。

ー 自分のフィルターを通して、表出させるという感じでしょうか。

谷川:ちょっと曖昧にすることで、見てくださる方それぞれが感じる“余白”を設定しておきたい気持ちがあります。
全部落とし込んで「この作品はこうです」ってバーンと提示してしまうのではなく、色々な見方があっていいかなと思っています。

ー 酒井さんはいかがでしょう。酒井さんといえば、“キョッシー”という代表作がありますが、名前の由来はなんですか?

酒井:葉っぱの形から来てるんです。葉っぱの縁のギザギザ部分のことを「鋸歯(きょし)」というんですが、そこからもらって“キョッシー”と名付けています。
親曰く、幼い頃から自然物が好きで、砂と葉っぱが一番のおもちゃだったそうです。今でも葉っぱとか集めだすと止まらなくて大変なことになるので、極力控えるようにしています(笑)

ー ちなみに何の植物が一番好きですか?

酒井:椎の木は好きですね。今回のDM作品のモチーフにもなっています。
銀杏も好きで昔からモチーフとして扱っていて、今回もバージョン違いみたいな形で作ってます。
あと松とシダはずっと制作したいと思っていて、今回ようやく新作として発表できました。

ー お二人にとって作品制作する際のモチベーションは何か教えていただけますか?

酒井:基本的にはお仕事を頂ければ勝手にモチベーションはキープされていますね。制作は淡々と、一人で黙々とやるタイプだと思います。作品発表の場では緊張する事も多いですが、作品に対しての感想を聞かせていただいたり、共感をしていただける事は、励みにもなりますしモチベーションも上がります。

ー 例えば気に入った葉っぱを見つけて「すぐ作りたい!」と思ったりはしないですか?

酒井:その時は葉っぱを集めておいて、スケッチや葉っぱのトレースなんかをノートに保存しておくだけですね。
作り始めるのはお仕事や展示会が決まった時で、今回はどうしようか、とアイデアノートから選んで作業する感じですね。スタートがハードな作業になるので、中途半端な意気込みで作り始めるという事はまずないです。

ー 作家さんって何かを見て「創りたい!」っていう衝動が湧き出て創り始めるのかと思っていたのですが、ちょっと違うんですね。

酒井:作りたいという衝動が起きても、一旦は「アイデア保存」ですね(笑)

谷川:酒井さんが、葉っぱを集めるっておっしゃってましたが、私も近いものがあって、ドローイングを溜めています。
「この作品のために」というのではなくて、自分の中でインプットしてきたものをアウトプットした結果のような感じですね。
漆の作品は作るのに結構時間がかかるというのもあって、会社員のように規則正しくほぼ毎日アトリエに通っています。
毎日食事するとかそういうのと同じテンションで淡々と繰り返し制作してます。根本的にやっぱり作ることが好きだからできるんですよね。

ー 何かちょっと私が勝手に想像していた「作品が生まれるまでの過程」が、比較的淡々としていて驚きました。

谷川:漆も金属もそうだと思うんですが、両方とも絶対的に作業量があって時間がかかるので、計画的にやっていかないと完成できないっていうのはありますよね。

酒井:そうですね。なので制作実行の段階では「鉄工所の人」になってますよ私は(笑)何か、ドローイングの時点と作る時点で違う自分が二人居ませんか?

谷川:分かります。ドローイングの時はちょっと絵描きの方の気分です。今日は気分が乗らないからやらない、みたいな(笑)
素材のフェーズに入ったら、ちょっとそれまでとは違うスイッチが入るんだと思います。仕事人みたいな(笑)

ー職人フェーズに入る感じですかね。

谷川:酒井さんとは何か温度感みたいなものが近いところにあるのかなって思います。

ー では最後に、お互いに何か聞いてみたいことはありますか?

酒井:植物や風景からドローイングされているという話をうかがって、びっくりしました。植物という共通のモチーフを含んでいても、谷川さんは「遠景なんだ」と。

谷川:遠景も近景もあるんですけど、そうですね、遠景もありますね。

酒井:それを知らずして作品を見てドキドキ魅了されましたが、お話を聞いていて、自分が植物を見る感覚と通ずるところがあったからなんだと腑に落ちました。

ー 酒井さんはミクロな世界観で、谷川さんはどちらかというとマクロな世界観を感じます。

酒井:そうですね。顕微鏡の世界とかも、すごく興味があります。

谷川:酒井さんの作品は双葉のような芽の部分があって、そこだけ磨き上げられているのが印象的で。ここには何かこだわりはあるんですか?

酒井:この部分ははっきりと決まってないんですけど、何かしらの“機能”を表していて。作品によって違うのですが、実だったり雄蕊雌蕊だったり芽だったり。でも半分くらいは見る方に委ねています。
根っこの先とかもそうですけど成長ホルモンがすごい集まってるんですよね。そこにエネルギーが集中しているイメージで先端を磨いてます。アクセントというかアンテナというか、何かがここにあるぞ!というのを表現しています。

金属と漆という異なる素材と対峙しながら、自然という共通の対象を見つめ、それを自身の作品として創り上げていく。
お二人のまなざしの違いを体感できる「虹のリズム」は10月23日[日]まで開催しています。ぜひお越しください。

記事:山田ちひろ / 写真:木村宗一郎

酒井由芽子 / Yumeko Sakai

植物をモチーフにして金属を使って立体作品などを制作する。
この世に生きとし生けるものの存在、また生命が作り出されることを不思議に感じ、とりわけ植物が生成される事に着目する。

谷川美音 / Mine Tanigawa

風景や対象を触覚的に捉えられる瞬間があります。この時の感覚をドローイングという手段で視覚化し、その形に漆を重ねることで触感の記憶を反芻し、留めています。
漆という流動性がありながらも永続的で静的な側面も持つ素材と、ドローイングから生まれる刹那的で動的な要素を混在させることで、今目の前にある景色が時間の積層のなかにある瞬間であることを想起させ、今という時間(時代)とどう対峙するのかを問いかけます。


酒井 由芽子 / 谷川 美音
虹のリズム
2022年10月1日[土] – 2022年10月23日[日]

JILL D’ART GALLERY

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