栗原 光×橋本 忍
作家や作品の魅力をさらにご紹介する企画「Artist Interview」。
第27回は現在企画展「scene 02 – 室の花」にご参加くださっている栗原 光さん、橋本 忍さんにお話を伺いました。それぞれ異なる表現方法ながらも、その作品に共通するどこかゆったりとした空気感。インタビューを通じてその共通点が見えてきました。是非ご一読ください。
※メイン写真(左から):栗原光さん、橋本忍さん
ー 今回初めて展示していたく橋本忍さんは金属でモビールなどを制作されていて、栗原光さんは抽象的な平面作品を制作されていますが、お二人の作品コンセプトについてお聞かせいただけますか。
橋本さん(以下敬称略)「何を思って制作しているかというと、焚き火とか山や川のゆらぎ、自然にゆらめいているからずっと見ていられる。そういう、ぼーっと見ていられるものを作りたいと思っています。出来上がったものよりも“時間”自体が自分の中にテーマとしてあって、どう感じてもらえるかを大切にしています。」
ー ゆらぎによって作り出される時間や空間を大切にしたいということですね。
橋本「そうですね。なので主張しすぎないようなものを作っています。それが一番大切にしているものづくりのコンセプトですね。」
栗原さん(以下敬称略)「僕は、“何を描くか”というよりも“どう描くか”ということを重視しています。思考の痕跡が残るように意識的に筆跡やストロークを残したり、絵画を構成する要素である線や面、色、レイヤーとしての重なり、奥行きなどを考えながら描いています。」
ー 以前からこういったシリーズはあったと思うんですが、昨年リアルスタイルHOME(ジルダールギャラリー企画)で展示していただいた時とはまた少し雰囲気が変わったように感じるんですが、ご自身の中で何か変化はあったんでしょうか?
栗原「考え方自体やアプローチの仕方は変わっていないんですが、最近はよりシンプルな構図にしています。シンプルにすることでより「描き」の部分が明確に表現できるかなと思っています。」
ー それでは次に、橋本さんは作家作品を取り扱ったり買い付けたりされていたそうですが、ご自身が作品を作り始めたきっかけはあるんですか?
橋本「ある作家さんの作品で石で作ったモビールを見たのがきっかけではあるんですが、世の中にまだあまり無いものを作りたいなと思ったのが元々の始まりですね。動くことによって表現される、全体の表情が変わるようなモビールを作ろうと思いました。」
ー 元々金属がお好きだったんですか?
橋本「真鍮作家の作品を取り扱っていたのもあって目に触れる機会が多かったので、素材としての興味は元々ありました。時計やベルトのバックルなど自分も作ってみたいなと思い始めて制作するようになって、真鍮の曲げたりして形を自在に変えられるところや、土っぽくなるような経年変化も面白くて、そのまま扱い続けています。」
ー 栗原さんはいかがですか。昔から抽象的なものを描かれているんでしょうか?
栗原「いえ、学生時代は風景画など具象を描いていました。美術の方向に進もうと思ったのも高校3年の終わりくらいなんです。
美大に入学してからデッサンや写実的な作品を練習していくんですが、大学3年生くらいになったある時、テーマが自由な課題があって。それでいざ自由に描いて良いとなると何を描こうか迷ってしまって。そういえば高校の頃に滝を描いていたことを思い出して、原点回帰のつもりで滝の絵を描き始めました。
そのうち滝をクローズアップして水の動きや流れ、光といった感じで段々と視点が寄っていて。それなら描くものが水じゃなくても良いかも、そもそも絵は何か描く対象のものがないと描けないのだろうかと考え始めて、徐々に具象だった作品から半具象、抽象へと変わっていきました。」
ー なるほど!それを聞くと筆のストロークが水の流れのように見えてくるから不思議です。
栗原「水のようだと言われることもあるんですが、その時の名残があるのかなと思いますね。絵のタッチの中にゆらぎを感じてもらえているのかなと。」
ー 動きやゆらぎという部分は、お二人の作品に通じていてとても面白いですね。
ー では、今回の展示や新作についてお聞かせください。
橋本「今回展示しているものは全てこの二人展のために新しく作ったものですね。ギャラリーに合わせて元々あった形からブラッシュアップさせた作品もあります。」
ー 橋本さんのモビール作品の中には定番と呼ばれているタイプもありますが、打ち合わせの時に今回はそれらをあえて飾らず新作でお願いしていて、応えてくださって嬉しいです(笑)
橋本「いえいえ(笑)やっぱり制作するうえで、いつもワクワクしてたいなという想いはありますよね。定番は定番でもちろん今も作っているんですが、出来上がりは想像できるので、一点一点試行錯誤しながら作り込んでいくのは、やはり作っていて楽しかったですね。
今回展示が決まってから改めて勉強しようと思って、今年の頭から鍛金教室にも通い始めたんです。」
ー そうだったんですね!
独学でモビールを作ってこられた橋本さんですが、独学で出来る部分と勉強したからこそ出来る部分はありますか?
橋本「それは凄くあります。技術的なことはもちろん金属特性についての座学もあるので、だからこうなるんだって理解できていくのが楽しいですね。」
ー ジルダールの展示をきっかけに新たな表現が生まれたなんて、とっても嬉しいです。
ー 栗原さんは、橋本さんとの二人展の話を聞いていかがでしたか?モビールと展示される事はおそらく初めてだったかと思いますが。
栗原「そうですね。ただ最初にお話をいただいた時から相性が良いんじゃないかなっと思ってました。モビールであればバランスを考えたりすると思うんですが、僕も絵の中でのバランスや動き、レイヤーなどを考えながら描いているので、立体と平面ではあるけど、共通する部分はあるだろうなと勝手に感じていました。」
橋本「嬉しいです。私も平面作品との展示は初めてでどうなるか想像できませんでしたが、金属では出せない色味がたくさん入っていて温かい気持ちの良い空間になったなと思います。」
ー それでは最後に、今後やってみたいことや目標などがあればお聞かせください。
橋本「私は時間がテーマなので、照明や音楽と合わせることにもっと拘っていきたいですね。」
ー 橋本さんは舞台装飾などもやられていて、ご自身でも野外音楽フェスを主催されているんですよね。
橋本「今も時間に合わせて光が瞬くような動きにしているんですが、自分が感じる心のゆらめき、心地よさというものがあってそこをもっと突き詰めていきたいですね。」
ー 栗原さんは何かやってみたいことはありますか?
栗原「僕は日々実験しているようなものなんですが、要素などをもっと削ぎ落として一発で決めたいとは思っています。そうしていったら最終形ってどうなるだろうと考えると、面だけになったりするのかなって想像するんですけど、それで作品として成り立たせるにはどうしたら良いかということを考えたりしています。」
橋本「削ぎ落としてシンプルにしていくのって、実は付け足していくことよりもすごく難しいことですよね。」
ー これからどう作品が変わっていくのか、お二人の今後が楽しみですね。
企画展「scene 02 – 室の花」は12月24日[日]まで開催しています。
お二人の作品から溢れるゆったりとした空間。師走の忙しさから束の間解放されてみてはいかがでしょうか。ぜひお越しください。
インタビュー:榮菜未子 / 写真:木村宗一郎
栗原 光 / Hikaru Kurihara
1987年 ⻑崎県⽣まれ。名古屋造形⼤学 造形学部 美術学科 洋画コース 卒業。
絵画を構成する要素、思考の痕跡を⼿掛かりに油絵での制作を⾏う。 ⾊と質感、筆致と筆跡、⾯と線の間に⽣じる事象や関係性の中から、なにかが予感として現れる感覚を⾒定めながら、⼿の動作の集積によって浮かび上がるフォルムを表現する。
近年の主な展⽰に、個展「relation」(2022 / 伊勢現代美術館・三重)、企画展「HANDA NEW VISION -アートの⽬覚め-」(2022 / 旧中埜半六邸、半⽥⾚レンガ建物・愛知)など。これまでの受賞に、はるひ絵画トリエンナーレ(第10回 / ⼊選・第7回 / 優秀賞) など。
橋本 忍 / Shinobu Hashimoto
1980年 北海道札幌生まれ。
大学卒業後、オーストラリア、ヨーロッパ、アジアを旅し、その後静岡県に移住し工房を構え、真鍮とゴールドを使ったモビールなどの作品を全て独学で制作し活動を続けている。
モビール作品は、空間に絵を書くかのように制作。「動き」「浮遊感」「佇まい」もし出来るのであれば、少しだけ時間を忘れて眺めて欲しいと考えている。
その他、ジュエリー制作や什器制作、空間演出なども行い、活動名「Shinobu Hashimoto」ブランド名「ningulu」として各地で個展、百貨店催事、クラフトマーケットに出展。